「前川さんは、日本郵政三社のIPOは魅力的だと思いますか?」と聞かれる度に、「私は全く関心がありません」と、ある意味、つれなく答えてきました。
よくNTT(日本電信電話公社)の上場のときと比較されて話題になりますが、これと比べるには当たらないと思います。NTTは国が独占していた電信電話事業を民に開放する方向性が示された中で、そのリーディングカンパニーとして期待を集めた企業でした。
そういう意味では、日本郵政三社は、たくさんの同業他社が既に存在し、しかも、成熟した飽和状態にあるとみなされる金融業界に遅れて参入する立場にあります。日本郵政三社が後から乗り出して、金融業界でめざましい活躍が期待できる会社でなければ、あえて投資する意味を感じないからです。
高い配当利回りに期待する声がありますが、それは、投資した時点の株価がその後も安定していことが前提です。下馬評通り、このIPOに人気が集まれば、当然、上場後の株価は実力以上の割高で推移することが考えられます。スタート時の割高が行き過ぎれば反動安も大きくなる可能性が高くなります。
したがって、もし高い配当利回りを魅力に思い、長期で投資を考える方なら、上場後、株価が下落した後にゆっくり、「配当利回りの高さと株価の下落リスク」のバランスを見ながら投資する機会を探ったほうがよいのではないでしょうか。
したがって、IPOへの投資目的はあくまでも短期的な利益を追求することと割り切ったほうがよいと助言します。つまり、このIPO投資は投資初心者には難しい対象だと思いますので、一部で言われているような「貯蓄から投資へ」と貯蓄から投資を始める一歩として適当な機会だという案内には違和感があります。
「TPPの大筋合意」というサプライズもあり、売られすぎた対象の修正がかかり、少し、明るさが戻ってきました。しかし割高なものがさらに割高に向うほどのエネルギーはありません。今後においても、「割高かも?」とか「割安とは言えないかも?」という対象への投資は慎重であるべきでしょう。
逆に割安だと確信があるものが見つかっている人は、今後も値動きが激しい環境が続きますから、「こんなに安い状況があるとは・・・」と想定していた以上に下落する事態もあり得ます。そのときは、辛抱のいる時ではありますが、すぐを期待せず、コツコツと下値を拾う検討を続けて欲しいと思います。
売られすぎたものは、いずれ妥当価値に向かうときが来ます。
「やはり、あそこで投資しておいてよかった」と、割安な時に投資してよかったという経験は、前向きな投資活動の糧になりますから。