今月の視点 2021年9月

今、ブラジルレアル建て債券に注目する理由

低格付債券の金利が上昇

米国では、当初は短期で終わると考えられていたインフレの勢いに衰えが見られません。米労働省が8月14日に発表した7月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比5.4%。約13年ぶりの高水準だった6月と同じ上昇率でした。

新型コロナウイルス禍での供給不足が原因とされたインフレ圧力は、経済回復が進むにつれ解消されると思われてきました。しかし、感染力の強いデルタ型の拡大で、人繰りがつかず工場の稼働に支障が出るなど、経済の先行きにも懸念が広がっています。

一方、8月27日に米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は講演で、米国債などの資産を購入する量的緩和の縮小につき、「年内に開始するのが適当」と表明しました。9月3日発表の8月雇用統計で労働市場の着実な回復が確認できれば、9月下旬の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和縮小の開始を決める可能性が一段と高まります。

FRBはインフレ圧力を放置しておくと、将来、景気を犠牲にしてでも大幅な利上げを進めざるを得なくなる一方、逆に金融政策の正常化を急いでせっかくの景気回復の芽を摘んでしまうと、元の超金融緩和の道に戻ることにもなりかねず、難しい舵取りを迫られています。

こうした政策の転換点では、マーケットは些細なきっかけで大きく動揺しやすいことから、リスク資産が敬遠されて安全資産を求める動きが出てきます。昨年、コロナ禍でFRBが異例の金融緩和を講じた結果、米10年国債利回りは2%程度から一気に0.5%程度まで低下して、一時、金利面での魅力を失いましたが、現在の水準は1.3%まで回復し、魅力を取り戻しつつあります。

米国債金利が投資家の期待に応える水準に戻れば、リスクの割に金利妙味の低い低格付債券(ハイ・イールド債)への投資が減り、結果、妥当な金利水準を目指して上昇しているものがあります。

複利10%で運用できたら

そんな中で私が注目しているのは、ブラジルレアル(BRL)建て債券です。

ブラジルの場合、2016年8月に14.25%だった政策金利を2%まで引き下げる、思い切った金融緩和で景気回復を図ってきました。ところが、資源・食料品価格の高騰で、今年の3月から政策を転換し、政策金利を5.25%まで4回引き上げています。それでも、消費者物価指数の上昇率が前年同月比で8~9%と高水準であるため、マーケットは、年内にさらに7.0%まで引き上げていくと見ています。

インフレ抑制のための政策金利の引き上げを受けて、ブラジル10年国債利回りは6.3%から10.5%まで上昇、1BRL=18円程度から21円程度へとBRL高に振れるなど長く続いた通貨安基調も落ち着いてきました。

この先も、債券投資が不利になる金利上昇が続く環境にあるので、「あのブラジルでしょ?」と多くの方がBRL建て債券への投資に慎重になるのは当然です。しかしながら、10%程度の利回りがあり、為替水準が落ち着いてきたことは要注目です。

複利利回り10%とは、元本が毎年10%ずつ増えていくことですから、10年後には約2.6倍になる水準です。10年前の1BRL=48円程度が現在は21円程度ですから、通貨価値自体は4割程度へと大きく下落しています。しかし、元本は2.6倍に増えているので(=2.6倍☓通貨価値0.4=1.04)、こんなに円高になってしまった現在でも、10年前に円で投資した元本価値が守られるほどのかなり高い利回り水準なのです。

外国債券投資は円高で金利が高いときほど効果があります。1BRL=21円程度と過去最安値水準にある円高・BRL安の状況で、10%程度の利回り水準にあるBRL建て債券に魅力を感じませんか。
ただし、BRL建て債券投資は、為替も金利も大きく上下して投資判断が難しい対象なので、直接投資はお勧めしません。お勧めは、BRL建て債券を投資対象にする投資信託を利用し、しかもタイミングを図らず積立投資で取り組むことです。もしその後に価値を下げる場面が来たら、さらに大きなチャンスが来たと積立額を増やす、または一括投資を検討するというのが、投資チャンスを逃さない現実的な対応だと考えます。