昨日、日銀の利上げを取り上げた番組のほとんどが、今回の利上げでメリットを受けるのは「預金利息が増えて喜ぶ」、「円高でブランド物が安く買えて喜ぶ」大金持ちであり、一般庶民の大半は恩恵をこうむることはなく、むしろローンを抱えている人にとって生活が厳しくなるという論調でした。
もしそれだけのことだったら、「金利を上げても良いこと無いじゃん。日銀は余計なことをしてくれた」と不満だけが残ります。日銀は国民の目線に立って「何故痛みを伴う金利の引き上げをしたのか。何故今なのか」の理解が足りないこと、理解してもらっていないことを受け止めて、説明責任が求められます。今後いろいろな場面で日銀は、今回の利上げが必要だったわけを説明することが増えると期待します。
利上げ後、相場はどのように動いたでしょうか?日本株式相場はTOPIXで15年3ヶ月ぶり、日経平均株価では6年9ヶ月ぶりの高値更新。円高反転が懸念された為替は、逆に円の独歩安、ユーロは市場最安値、160円目前。ドルは122円手前の動きです。今回利上げしたことで、日銀が次回利上げを決断するまでには最低6ヶ月間はあくだろう。欧米との金利差は十分確保されている状況に変化はなく、大きな円高が懸念されるイベントは当面無い、円安は続く。円安が続けば、企業業績の安定が確保されるから、安心して日本株は買われ株価も上がる、という考え方が背景にあります。
今回利上げの機会は日銀にとって最後の機会だと言われてました。3月決算企業は、業績に直接影響を受ける3月末時の為替水準がどこでおさまるのかを気にしています。3月に入った利上げは避けたい。4月以降は選挙のオンパレード。景気失速につながる懸念がある「金利引き上げ」のイベントに政府・与党は神経質になります。国内の状況を考えると、ギリギリの選択でした。
また海外からは、「日本は不当に円安を放置して国内輸出企業を擁護している」と露骨な不満や牽制が入り出しました。さらに、1月は利上げ目前と市場が織り込むほど思わせぶりの発言を繰り返した日銀が、政府・与党の恫喝で翻意したかの印象を残す大失態。海外から、中央銀行としての日銀の面目を保つギリギリの選択でした。
本来、円高・株安に転換するかも知れない日銀の金利引き上げの反応は、逆に円安・株高になりました。もし今回引き上げていなかったらどうなっていたでしょうか。意志を持たない日銀、使命よりも自己保身を取った日銀、金利を引き上げる選択肢を持たない日銀。あざ笑うように、円安・株高がもっと一気に進んだのではないでしょうか。
株価18000円から2万円台に乗せて喜ぶ人、ドル120円が130円の円安になって喜ぶ人は確かにいるでしょう。しかし、現在の18000円、120円で十分、むしろこの辺で安定してもらいたいと思っている人の方が多いのではないでしょう。逆に2万円を付けたけど1年後12000円まで下げた、130円は付けたけど100円の円高に振れた時、どんな状態が予想されるでしょうか。「貯蓄から投資」の流れがここから加速し、預金が株や外貨投資に向かい、高値近辺でみんなが利益を確定できれば良いのですが。ここからバブルが発生しはじけたら、おそらく過去のバブル崩壊で受けた傷みよりも大きなものになるでしょう。大事な老後の資産を飛ばす人もいると思います。
相場は上がれば上がるほど、下げ方はきつくなるものです。かつて超低金利維持が土地バブルをあおり、途中でバブルを抑制するために金融引き締め政策に転換したが時期遅く、国民の投資・消費の意欲を完全に奪ってしまい、その後10年以上も景気は戻りませんでした。現在の状況を良しとして、この状況をできるだけ長く続けることを大事と判断し、「国民資産を守るために過度な金余りを問題視している」という日銀の意思表明が今回の引き上げだった思います。時期として、適切であったかどうかの議論は残されていますが、金利を引き上げたことによる現在の損得だけに注目するのは本筋ではないと思います。
ここ数年のマンションブームで持ち家マンションをローンで購入した人にとっては、一時的に持ち家の価値が上昇するよりもローン金利が上昇し負担が増えない方がいいですよね。持ち家の価値が上がるよりも、大きく下がらない方が心穏やかに過ごせますよね。バブルは「一発儲けてやろう」という人にとってはチャンスですが、多くの方にとっては気持ちを惑わし、不安にさせるものです。今回の日銀の決断を後世で、時期として「早すぎた」、「適正だった」、「遅すぎた」のいずれで評価を受けることになるのでしょうか。