今月の視点 2022年4月

1ドル130円時代に 当面は為替が大きく上下する時が続く

  • 日銀、長期金利上昇を容認へ?

対ドルの円相場が一時1ドル=125円台と、2015年8月以来の水準に下落しました。日銀が3月28日、強力な金利抑制策を発動し、当面は長期金利を抑え込む姿勢を鮮明にしたため、インフレ抑制を重視して利上げを進める米国との方向性の違いが意識されたからです。

日銀の黒田総裁は、3月18日の金融政策決定会合後の記者会見でも、「一時的な物価上昇に対しては、金融政策を引き締める必要はない。円安は日本経済にとってプラスという基本は変わらない」と、インフレは一時的、円安は日本経済にプラスと、足元のインフレ・円安基調を容認していました。

一方、3月にゼロ金利政策を解除した米連邦準備制度理事会(FRB)は、0.25%から0.5%に幅を広げて、年内に合計2.75%の利上げを行うとの予想が出るほど、インフレを退治する姿勢を強く打ち出しています。

こうしたFRBの姿勢を先読みする形で、2年米国債利回りは10年米国債利回りと並ぶ水準まで上昇。利回りは通常、期間が長いほど高くなりますが、景気の先行きが不透明な時は長短金利の水準が並ぶこともあります(1994年、2006年、2018年、現在)。こうなると、為替相場は大きく一方向に振れやすくなります。

非資源国の日本にとって、資源高に円安圧力が加わるとインフレ懸念が急激に高まります。過去にも1ドル=122円を超えると、インフレが心配とドル需要が高まって130円台を超える円安に向かったこともありました。今まさにこのポイントを抜けたことで、為替が大きく円安に向かいやすい環境に入ったと考えます。

これまで日銀は、国内景気を支えるためゼロ金利を維持してきましたが、インフレを無視することはできず、長期金利の上昇を容認するなど、政策の転換を図るタイミングに立ち至ったのだと思います。

ただし日銀は、FRBのように金融引き締めへの転換をそう簡単には表明できない苦しい立場にあります。長らくゼロ金利に慣れたマーケットがサプライズで大きく動揺しないよう、今後の対応について十分な説明を行う必要があるからです。

ただ、金融政策を緩和から引き締めに転換する日銀の表明が遅れるほど、円安が進行する期間を長引かせるので、対応が後手に回った結果、マーケットが混乱する中で、1ドル=130円台に乗せていく展開を私は想定しています。

 

  • 行き過ぎた円安から円高基調に

今後日本人は、国内金利が上昇し株価は下落、景気が停滞する中での物価高騰により多くの国民の生活が苦しくなるなど、最悪の状況に追い込まれるかもしれません。一方、ドルを保有する人は高くなったドルで割安な円建て資産を買うチャンスが訪れます。

ここで注意すべきは、大きく円安・ドル高が進んだ後ほど、急激な円高・ドル安に反転する展開があり得ることです。とりわけ、1ドル=107円を割り込む円高水準になると、「どこまで進むのか」と不安になり、ドル資産を手放す動きが加速して100円を大きく割り込む円高に発展することもあります。つまり、122円を大きく超える円安・ドル高への対応と、107円を割り込む円高・ドル安の対応の両面を考えておいたほうがよいということです。

円安時にドルを持っていれば、日本人にとってのピンチもチャンスに変えることが可能になります。安くなった円に換えて、高くなった国内金利で運用できますし、安くなった日本株に投資することもできます。

ただし、行き過ぎたドル高・円安の反動を想定し、大きな円安に振れた後、円高基調になったと判断したら、円安で得る利益を欲張らずにドルから円に(投信の場合は円ヘッジコースに)換えて、安くなった円建て資産を買うための準備をしておきましょう。

外貨投資の際には、一般的に、複数の通貨に資産を分散させる「通貨分散」がお勧めですが、今回は資源国であるか、インフレ対応をしているか、地政学的リスクの大きさはどうかなど、通貨の選択が難しいと思います。

米国は資源輸出国であり、金融引き締め政策に伴う金利上昇の中でも景気見通しはいまだに堅調、地政学的リスクが小さいので、通貨選択に悩む方はドルを主体に考えたほうがよいでしょう。