今月の視点 2022年3月

ウクライナ侵攻で新たなインフレ要因加わる

未体験の事態に準備する

ロシアのプーチン大統領は2月21日、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の一部地域について、ウクライナからの独立を承認した上で、現地の平和維持目的を理由に軍の派遣を決め、実行しました。そして2月24日、ロシア軍はウクライナへの全面侵攻を開始し、現在に至っています。

侵攻直前まで多くの専門家は、「ウクライナ国境にロシア軍が集結し情勢は緊迫しているが、侵攻するまでには至らない」と見ていたので、想定外の展開に22日、23日の株式相場は一斉に大きく下落し、一方で北海ブレントの原油価格は1バレル=105ドル台まで上昇しました。

中でも私は、ロシア株式とロシア通貨ルーブルの下落幅の大きさに驚きました。モスクワ取引所上場の大型成長株のうち、流動性が高い50銘柄からなる株価指数『ロシアRTS指数』は、全面侵攻前日の23日に1204ドルだったものが、24日には一時610ドルと半値になり、対ドル相場も81.14ルーブルから約10%安の88ルーブルまで下落し、その後さらに下げを加速しました。

直近のロシアは、食料品の値上がりを中心に、8%程度のインフレに悩む国でした。そこにウクライナ侵攻で株価が半値になり、ルーブル安が1割も進んだら、自国の軍事行動が因とはいえ、ロシア国民の暮らしも直撃します。

いつ物資が底をつくかもわからず、ロシアはもちろん、近隣諸国も在庫の確保に動くのは目に見えています。コロナ禍ですでに高まっているインフレ抑制のため、米国が利上げに向かう直前のこの時期に、さらにインフレを高める要因が加わりました。

「ウクライナ侵攻でマーケットが混乱しているので、引き締め時期が先に延びるのでは」という期待が一部にありました。しかし私は、織り込み済みの金利引き上げを延ばすと、先を読みにくくして混乱を大きくしかねず、米連邦準備制度理事会(FRB)としては、多くが予想する0.25%の引き上げではなく、あえて0.5%も視野に入れるほど、インフレに対するプレッシャーがかかっていると想像していました。3月2日の米議会でのパウエルFRB議長の発言は、少なくとも粛々と引き上げを実施していくことを示しました。

私達は、ロシアのような大国が現実に武力を行使して隣国に攻め入るといった前代未聞の状況の中、何が起こってもおかしくない不測の事態に直面しています。投資家は、マーケットが不安心理で混乱し、大きく上下に変動するリスクを覚悟しておく必要があります。

3月から始まるFRBの利上げも、「景気浮揚のため躊躇してはいけない」と各国が一斉に財政出動した結果として高まったインフレへの対応が始まりで、これもマーケットがこれまで経験したことがない事態です。当初は3回だった利上げ予想が、現在は7回利上げしても退治が容易でないとの見方に変わるほど、インフレ圧力の勢いが増してきました。今回のウクライナ侵攻で、さらに資源・穀物価格の上昇要因が加わりました。マーケットは、さらなる混乱が襲いかかるかもしれないと身構えています。

しかし、ウクライナ侵攻もFRBの利上げも、マーケットは当初こそ大きな上下動を繰り返すかもしれませんが、いずれは事態の先行きが見え、落ち着きを取り戻す時期が必ずやって来ます。

確かと思う対象で積立投資を

著名な投資家ウォーレン・バフェットは、ロシアがクリミアを併合した直後の2014年3月に応じたインタビューで、「米国企業には価値がある。最も悪いのは戦時に現金を抱え込むことだ」と答えたそうです。

株価が大きく下がると、どこまでも下がりそうな気がして投資に臆病になり、現金で持とうと考えがちですが、その投資対象が破綻することはなく、いずれは価値が見直される時が来るはずのものであれば、危機で大きく価値を下げたときこそ投資するタイミングです。そして、そのタイミングは事前に準備し、待っていた人にしかつかめないでしょう。

FRBの利上げをきっかけに大きく価値が下落して、ほとんどの人が投資に臆病になり、割安な価値のまま放置される投資対象がこれから出て来るかもしれません。すぐに報われることを期待せず、「辛い時期を3年ほどなら過ごしてもいい」ぐらいの気持ちで、確かだと思える対象への「積立投資」をお勧めします。

(2022年3月3日記)