今月の視点 2023年4月

取り付け騒ぎで欧米4銀行が経営破綻

●欧米で広がる銀行取り付け騒ぎ

3月は金融システムの不安が欧米で強まりました。銀行が破綻して預金の引き出しが困難になることを恐れて、預金者の取り付け騒ぎが起きているからです。政府や金融当局は、「リーマンショックの時と比べて、銀行ははるかに健全な状況にある。金融不安が今後広がった場合には、預金の全額保護などの臨時措置を検討する」と強調していますが、預金者の不安は収まる気配がありません。

3月8日に暗号資産関連企業との取引が多い米シルバーゲート銀行が自主的に清算を開始したと発表。3月10日、テクノロジー関連企業との取引で知られる米シリコンバレーバンク(SVB)がリーマンショック以降で最大となる規模の破綻。3月12日、やはり暗号資産関連企業との取引で知られる米シグネチャー・バンクが破綻。米国の銀行が相次いで3行、経営破綻しました。

取り付け騒ぎは大西洋を越えて欧州にも波及しました。3月19日、もともと不祥事などで経営に問題があったスイス2位のクレディ・スイス・グループが、同国最大手のUBSに救済合併されることに合意しました。

銀行業には、信用不安の噂が出るだけで資金繰りが詰まってしまうリスクが常にあります。銀行の資金調達は、いつでも解約できる「普通預金・当座預金・定期預金」がほとんどで、これを長期の貸付金や有価証券・不動産などで運用しているため、大きな資金流出が急激に起こると、対応に窮してしまうからです。

米金融当局は、SVBとシグネチャーについて、通常の預金保護の上限に関係なく全額を保護し、FRBが極めて有利な条件で銀行に貸出を実施する「銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」を新設しました。

さらに、FRBはじめ主要6中央銀行によるドル資金の供給拡大策を講じるなど、大量・急激な取り付けが起こっても十分な資金供給実施の構えを見せ、金融システム不安を早期に沈静化させようと矢継ぎ早の対応を行ってきました。

にもかかわらず「次の破綻先はどこか」と、小規模な金融機関から、預金保護の上限を心配せずに預けられる大きく確かな金融機関を求めて預金が移される動きが続いています。預金はどこに預けても同じです。であれば、心配のないところに預けたいと考えるのが自然。預金者は「どこが危うく、どこが安心なのか」の情報に敏感となっています。

不良資産を多く抱える銀行、抱えているかもしれない銀行が危ない、すぐに換金が難しい流動性の低い資産に多く投資(融資)している銀行は避けようなどと、預金者の目が厳しくなれば、取り付け騒ぎを起こしたくない銀行はリスク資産への投資に慎重となり、偏った投資を避け、融資先を選別する貸し渋り・貸し剥がしに向かう可能性が高まります。

今回の金融システム不安は、「長年の金融緩和の代償」という指摘があります。ゼロ金利で貸してくれる環境が長く続き、いつまでもこの状況が続くという錯覚が生まれたのかもしれません。その借りた資金で株式や不動産などリスク資産に投資して大きなリターンを得る成功事例も散見されました。

ところが、この1年、各国主要中央銀行がインフレ抑制のため政策金利を大幅に引き上げて足元の調達金利が急上昇したために金利環境が激変し、多くの投資家がゼロ金利を前提にした投資の見直しを考えていた矢先に今回の金融システム不安が加わり、マーケットは混乱しています。
今、心配されているのは、上場の目処が立たない未上場企業への投資、多額の借金と含み損を抱える商業用不動産投資、期待先行で利益が出ていない新興企業投資、の今後です。こうした環境が続けば、銀行の融資はさらに慎重になり、容易に元のようなお金があふれた金融相場には戻らないと思われます。

●機関投資家と異なる行動も検討

銀行の貸し渋り・貸し剥がしにより、金融の目詰まりを起こすことで各国中央銀行の利上げは必要なくなりそうです。

しかし、値上がりが見込めない株式の新規発行は投資家にニーズがないため、企業は融資を受ける代わりに債券の発行による資金調達に移行しますから、利上げ停止後も、金利は高めで当分推移すると考えます。したがって、投資する意味がないと判断されたリスク資産は、リターンが見合う水準まで価値が下落するかもしれません。機関投資家の多くは、他を出し抜いて多くのリターンを狙うよりも、単独での目立った損をしたくないため、似たような行動を取ります。

そこで、「機関投資家が売っているからこんなに値下がりしている」と聞いた時には、「機関投資家はみんなが売っているから仕方なく売っているのでは」と考えてみてはいかがでしょうか。

株式投資では、今は下落しているけれど、破綻せずに、いずれ価値が戻ってくる可能性が高いと思うのであれば、一括投資ではなく、今後の「下がって→上がって」を楽しみに、積立投資で取り組むのもいいでしょう。また、今後、社債金利が上がってくるなら債券投資にもチャンスが来ると思います。