米財務省の超長期債バイバック拡大とベッセント財務長官の発言力の今後
米国債市場で緊張が高まっています。米財務省は超長期ゾーン(10年〜30年債)のバイバック(買い戻し)枠を拡大し、市場へ強い姿勢を示しました。30年債利回りが一時5.3%超と約19年ぶりの高水準に達する中、財務省が超長期金利の上昇に歯止めをかけようとする動きは、市場安定化への強いメッセージとして受け止められています。
本来であれば、この流動性支援策は長期ゾーンの金利を抑制するうえで非常に効果があると私は考えます。慎重で実務的な姿勢で知られ、先日の日米協調介入でも手腕を発揮したベッセント財務長官が主導する施策であれば、市場の信認は確保され、バイバックの効果が段階的に浸透していくことが期待できたからです。丁寧な市場との対話と緻密なフォローアップこそが、彼の真骨頂でした。
しかし最近、ベッセント氏の発言には従来の慎重さとは異なる「揺らぎ」と「政治色」が色濃く出始めています。
「イランとの合意はまもなく」と言ったかと思うと、「イランとの取引を継続する関係国には経済制裁をかける」と外交姿勢をコロッと変えるなど、外交のメッセージが短期間で大きく変化しており、これはこれまでのベッセント財務長官のスタイルとは明らかに異なります。
背景には、中間選挙を控えた米政権内の強い政治圧力があると考えられます。トランプ政権が外交的成果や金利低下という「目に見える実績」を急ぐあまり、財務省のメッセージにまで政権の思惑が影響を与えている懸念を拭えません。協調介入の成功で評価が高まったベッセント氏が、政治的要請に応え続ける存在へと変質しつつあるのではないかという見方です。
そこで懸念されるのが、市場流動性を支えるためのバイバックが、単なる「一時しのぎの金利抑制策」とみなされて、その効果が長続きしなかった場合です。もしこの措置で金利上昇が止まらなかった場合、財務省が慎重な追加策(Plan B/C)を用意しているのか、あるいは政治的要求に応じた場当たり的な介入を重ねてしまうのかが不透明です。そうなれば、ベッセント財務長官の発言もトランプ大統領と同様に市場から軽視されてしまうリスクが生じます。
この混乱は日本にとっても他人事ではありません。米国の金利抑制策の失敗は、ベッセント財務長官への信認を低下させ、結果として米国に依存する日本の金利上昇がさらに加速し、財政リスク・プレミアムが跳ね上がる恐れがあるからです。米国の超長期金利の今後の動向から目が離せません。

