国民年金のポスターのモデルになった江角マキ子さんに未納期間があったことが後でわかり、野党やマスコミが「信じられない」と彼女の人格を否定するまでひどく叩いた光景が今でも印象的です。村上ファンド資金拠出問題で叩かれている福井日銀総裁の姿を見ていると、そのときのことが思い出されます。福井総裁は村上ファンドを解約したあとの状況が数字まで本当に把握できていないのかもしれませんが、世間が知りたい、聞きたい、見たいというものは、現状でわかる限りで報告してもらいたいと思います。「いつ取得して、現在ではいくらぐらい儲かっていて、途中の売却、追加は一切していない。99年に預けた1000万円は、その後現在までどんな運用成績の経過を辿ったのか」など。
福井氏が日銀総裁に就任した2003年は日本経済のどん底。メガバンクさえも潰れるという異常な危機感が高まったときでした。融資に臆病になった金融機関の尻を叩き、経営努力で必死にがんばる企業に資金繰りをつけようと、従来の日銀なら「インフレを助長しかけない量的金融緩和政策」に対し消極的な取り組みになるところですが、日銀は一貫して前向きに取り組みました。これだけ病んでしまった経済を立て直すには、これぐらいの荒療治を国が主導して実行しなければならないという強い危機感が日銀内にあったからだと思います。そしてこの中心に、類い希な信念があり、リーダーシップを持った福井氏が日銀総裁としていたことが幸いだったと私は思います。日本が現在の景気回復を成し遂げられたのは「何もしなかった小泉首相」と「経済・金融再生の命題を丸投げされた福井総裁」が同時期に存在したからです。それほど私は福井総裁を買っています。福井総裁がこの件で辞任するようなことがあったら、日本という国を見切る外人投資家は多いでしょう。だから、福井氏に以前の細川首相のように、途中で投げ出して欲しくないと強く望みます。
福井総裁がさきほどの件をすべて明らかにした後は、マスコミの出番です。「村上ファンドに資金拠出したことを国民に説明する必要があると思う立場の人は、自ら名乗り出てください」と訴えてください。福井総裁よりもっと大きな金額で、しかも本人名義ではなく、運用が順調なことを十分確かめた上で、何度も利用している人がいるかもしれません。村上ファンドの拠出を自分からできるように催促した人がいるかもしれません。
そのためにも、福井総裁には事実をわかる範囲で結構ですから伝えてもらい、口火を切ってもらいたいと思います。そうなれば「江角さんが一番潔かったねえ」というように、福井総裁も同様に評価されると私は思います。