ドルが史上最高値79円75銭をつけた1995年。こう言ってはなんだけど、商魂たくましい某証券会社の私の部署に、
「株急落で株式は売れない。円の急騰で外債は売れない。確かに今は当社のピンチである。しかしもっと大変なのは銀行だ。銀行だから破綻しないという不倒神話は崩れ、預貯金者は大いに動揺している。しかも、今年は90年に発行された年9.604%確定高利回り商品ワイドの満期を迎える年だ。銀行よサヨウナラ、証券よコンニチワ。絶好のチャンスである。預貯金に性質の近い債券で銀行の個人からお金を呼び込め」と号令がかかりました。
振り返れば、「機関投資家では債券を売れないから個人に売れ」という単純な号令だったのですが、我々は一生懸命に「個人に魅力的な債券を探し個人向けに提案を始めた」のが95年です。
国債の金利は急低下。そこでそれよりも高い金利の地方債や社債をピックアップしました。しかし、一番高利回りで好評だったのはサムライ債でした。サムライ債とは海外企業や政府機関が日本で発行する円建ての外債です。10年国債利回りが3%ぐらいの時に、サムライ債では7%程度のものが人気でした。
「為替リスクがなくて7%も?」。口コミで広がったのか、宣伝しなくても買いたい個人投資家が寄ってきて、出せば即完売でした。当時の売れ行きは半端ではなく驚きました。
法人でも10億円販売するのも大変な時期に数時間で100億円近く売れたりしました。
「100億円でも100万円買う個人が1万人いたら売り切れちゃうんだあ」と素直に、個人の数の力に驚きました。
その後、サムライ債の金利も急低下し、1ドルが90円、100円と円安に向かう過程で、すっかり円債は隅に追いやられて、空前の外債ブームに向かっていきました。
本日の日経夕刊に「円建て外債(サムライ債)発行急増 新興国など昨年度分超す ドル・ユーロ離れで」という記事があり、いつか来た道をまたたどるのかなあと思い出した次第です。
「円高で困る」想像だけではなく、「円安で戸惑う」想像も今のうちにしておいた方がよいと思います。