最近、「企業業績は最高益なのに、従業員の賃金は上がらない。むしろ、以前より減っているってどういうこと?」という批判を多く聞くようになりました。「そうは言っても、企業が成り立って利益を出すのが第一で、賃金の引き上げが遅れるのは理解してもらいたい」と企業側はただ言うだけ。
高校の漢文の時間に先生が話してくれた「項羽と劉邦」の話を思い出します。出ると負けの「劉邦」が、出ると勝ちの「項羽」の追われ、馬車で逃げるシーンです。項羽軍が馬車に追いつきそうな追撃を受け、劉邦が取った行動。荷を軽くするために「自分の子供」を馬車から落としたそうです。それを見た奥さんだったか、家来が「どうして?」と聞くと、「子供はいつでも作れる。俺がいる限り」と言ったそうな。
この話がどうも頭にこびりついて、「プライドが高く友達が少ない項羽」と「品がないけど人情味と徳がある劉邦」という話を聞くと、劉邦の徳は得じゃないかあ?と思ってしまいます。
以前証券会社にいたときに、「これだけ稼いでいるんだからもっと給料もらってもいいよなあ」という話を耳にしました(私はヘッポコ証券マンでしたから言えませんでしたが)。今思えば、その儲けの源泉は何だったのか。儲けの源泉が手数料などサービスの対価が割高だったのであれば、消費者あっての利益ですから、消費者への還元は必要かも知れません。もし従業員の力に負うことが大きければ、従業員の志気に応えるための賃上げは必要でしょう。そうしなければ、人材は流出して企業の質が落ちるかも知れませんし、恨みに思った従業員は、あちこちで会社の悪口を吐きますから、企業のマイナスイメージにつながります。消費者への還元や、従業員の賃上げをしたら、企業活動が成り立たないという根拠を消費者や従業員に示さなければ、到底納得がいきません。企業業績が好調、最高益と話を聞けば。
「俺がいなければ家が絶える」という、わかりやすい根拠を示せば、消費者や従業員も無理な要求はしないでしょう。今は会社だけが儲かっているという不信を晴らし、渋っているわけではない、還元したいのはヤマヤマ、もう少しこらえてくれと、待っている人の頑張る気持ちが切れない配慮が企業側に欠けているように思います。