9月30日に金融商品取引法が全面施行され、有価証券の広告をする際には有価証券のリスク説明を大きな文字でわかりやすく投資家が理解できるように表示することが強化されました。そのため、以前に比べて有価証券の募集記事の量が少なくなってきているようです。しかしその中で、新興国ファンドの募集広告ばかりが目立っているようにも思えます。
私は10月の投信販売実績の数字に注目しています。販売金融機関の現場では「どこまでのリスク説明を行えば、説明責任を果たしたことになるのか」という戸惑いがあり、この一ヶ月間は顧客から「これを買いたい」という意向があれば別ですが、説明や説得が必要な商品を自ら積極的に勧誘する行為を控えたと私は想定しているからです。つまり、販売金融機関の勧誘なしでどの程度売れるものか、そしてどんなタイプの投資信託が売れて、どんなタイプの投資信託の売れ行きが鈍ったのか。
渡辺金融担当相は記者会見で、9月30日に全面施行した金融商品取引法に関連して、金融庁に問い合わせがあった件数がピーク時の1日約200件から約15件まで減ってきたと発表したそうです。この数字を見て、金融商品取引法の施行に伴う混乱が治まってきたと言えるでしょうか。私はただ単に、10月に入ってから販売金融機関が勧誘を控えた結果ではないかと疑っています。
販売金融機関にとって投資信託の手数料収入は貴重です。そのため、勧誘に伴う説明、説得にかかる時間を余り取らず、顧客の意志で買いたくなるような金融商品の品揃えの充実を図りたいというのが自然な流れでしょう。「勧誘に伴う説明、説得にかかる時間を余り取らず、顧客の意志で買いたくなるような投資対象」として新興国ファンドを取り上げているのではとうがった見方をしています。
たとえ顧客ニーズがある金融商品でも「売れるという確信」がなければ、「説明、説得に時間を割かなくても、数売れる売れ筋金融商品」を優先する、販売金融機関の傾向が出てくることが想定されます。
したがって投資家はますます賢くなることが求められます。「これいかがですか」と勧められる前に、「こんなものが欲しい」と投資目的を明確にしておかないと、ウィンドウショッピングのようにブラブラして何にも実にならなかったとか、「なんでこんなものを衝動買いしちゃったのか」と後悔することが多くなりかねません。
販売金融機関の説明責任も重要ですが、投資家が投資判断ができるようにサポートする仕組みが未整備なのは片手落ちだと思います。