山一証券が自主廃業を発表したのが1997年11月24日、あれから10年が経ちました。1997年7月1日に香港が中国に返還された年でもあります。
95年年初7,000台だった香港ハンセン指数は97年8月には17,000目前まで上昇し、バブルがはじけ、アジア危機に突入。10月には9,000割れまで一気に急落しました。思い起こせば、このアジア株のバブルのはじけた時期に山一証券は「押し目だ」と言って、大攻勢をかけていました。
「何が儲かるのか。何が売れるのか」という焦りが、目の前の値動きあるものに取り憑かれてしまったのでしょうか。
現在証券会社では、株式投資よりも投資信託の販売が主流です。「投資信託しか売れない銀行と、株式など変動商品を扱ってきた証券会社とは投資のノウハウの蓄積が違う」という、あの鼻息の荒さは今は聞こえてきません。
値動きがあるものを勧めるわけですから、「何故今が投資する時期なのか」を一生懸命にお客様に説明し、結果思うようにいかなかったときには「何故こんな結果になったのか。今後どうするのか」をお客様に文句を言われながらも、説明しました。
その中で、「こんな話し方をすると誤解される」とか、「こういうお客様には、こういうタイプの金融商品を求められても紹介してはダメだ」とか、トラブルの経験が次のトラブルを生まないための工夫など、営業マンにとっての知恵になりました。したがって、当時の優秀な営業マンはトラブルをいくつもくぐり抜けてきているので、「相手がどんなタイプのお客様であっても対処できる」という自信がありました。
私はある金融機関の担当者から「非常にうるさいお客様で、内容はわからないけど株の話らしい。何か怒っているような雰囲気なんだけど、良かったら会って話しを聞いてもらってもいいかなあ」と頼まれて、そのお客様の所にうかがいました。
確かに取っつきの悪い方ではありましたが、内容は「株式の配当をどう受け取ったらよいのか」という簡単な質問でした。後でその担当者から「どうだった?怒られた?」と確認の電話が入ったのを今でもはっきり覚えています。
私が最近「このままでいいのかなあ」と感じているのは、余りにも「投資家の自己責任」、「投資判断は投資家がすべきもの。営業マンは誘導してはいけない」という意識が強くなり、金融機関がお客様と対話する機会が極端に少なくなっていて、投資を助言する機能が全く働いていないように思えるからです。お客様との対話の機会もなく、助言をした経験もなく、お客様との行き違いで発生したトラブルの処理もしたことがない、そんな金融機関の窓口が「どうして投資家のニーズがどこにあるのか」というアンテナになりえるのでしょうか?
以前のような強引なセールスは論外ですが、現在の品揃えをしておいて、「お客様が関心があるものが見つかれば、声かけてもらい、買ってもらえればよい」というフリーマーケット状態で金融商品が売れ続けるわけがありません。これまでは投資に関心がある人が少なからず存在したからです。投資に疲れてしまった人は金融機関の窓口に行く気も失せてしまうでしょう。
これは金融機関にとっても、投資を前向きに考えている人にも不幸な結果です。お客様といかに対話できる時間を増やし、機会を増やしていくか、もっと金融機関側にお客様の投資判断を手助けする工夫、努力が必要なのではないでしょうか。
そうしないとますます、インチキ金融商品やまがい物をつかまされて、泣く投資家が増えてしまうと危惧しています。賢い投資家を増やすのに金融機関が無関心であってはいけないと思います。
自分で投資判断ができる投資家を増やすために金融機関は何か努力をしていますか?品揃えと情報を流すだけでは不十分だと思います。この10年がよい区切りになればいいのですが。