今月の視点 2021年10月

中国経済の長期低迷を懸念する日が来るかも

  • 恒大集団のデフォルトを織り込んだマーケット

9月のマーケットでは、中国の不動産開発大手『中国恒大集団(エバーグランデ)』が発行する社債の債務不履行(デフォルト)リスクに関心が集まりました。同集団が高利回りを謳って資金を集めた金融商品(理財商品)の返金を求め、投資家が本社に押しかける様子を見て、2008年のリーマン・ショック再来を想起した投資家も多いと思います。

中国恒大集団は香港市場に上場している企業で、中国の不動産市場の拡大を背景に急成長してきました。不動産事業だけではなく、積極的なM&Aを展開し、プロサッカーチーム「広州足球倶楽部」を擁するほか、ヘルスケア事業、電気自動車(EV)事業などを幅広く手掛けています。

しかし、中国政府が昨年8月、自己資本に対する負債比率を一定水準以下に保つことなど「3つのレッドライン」を示し、不動産業界に財務の改善を求めると、借金頼みで事業を拡大してきたことが裏目に出て、急激に資金繰りが悪化するようになりました。銀行が新規融資を絞ったため、不動産会社は在庫の投げ売りをせざるを得なくなりました。

中国で不動産を保有しているかどうかは格差の象徴です。上海市の中古住宅平均価格は、同市労働者平均年収約210万円の59倍である1億2400万円(2020年8月時点)です。バブルだった1990年の東京都でも18倍でした。「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げ、格差是正を進めたい中国政府にとって、庶民に手の届かない住宅価格の高騰は見過ごせません。

このように、中国政府が不動産業界への圧力を強めた結果、中国恒大集団の経営は急速に悪化していきました。株価は2020年末の14.9香港ドルから2.06香港ドルまで急落し、社債には価値が額面の4分の1にまで値下がりしているものがあるなど、マーケットではすでに、同集団のデフォルトを織り込む水準まで売られていると言ってよいでしょう。

  • リーマン・ショックの再来なしと楽観視する株式市場

9月21・22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、11月の次回会合で「テーパリング(資産購入の段階的縮小)に踏み切り、来年半ばに終える」と示唆。利上げの時期も前回(7月会合)は少数だった「22年中に1回以上の利上げを見込む」委員が半数に達しました。
これを受けて、米10年国債利回りは1.55%まで上昇しましたが、金利上昇は景気回復を背景にしたものと受け止められ、高値警戒感は残るものの、米国株式市場も含めて株式相場は世界的に堅調な展開が続いています。つまり、中国恒大集団の経営破綻懸念は個別企業の問題であり、第2のリーマン・ショックの引き金にはならないとマーケットは見ているようです。
そう考えるのは、①中国恒大集団に対して中国国外の主要な金融機関が抱える債権額はさほど大きなものではなく、世界的な金融システムのパニックにはならない、②中国恒大集団には担保になる不動産がある、③08年当時、マーケットはリーマン・ブラザーズの破綻を想定していなかったが今回は異なり、さらに中国経済全体に大きな影響を及ぼしかねない破綻リスクを中国政府が放っておかず、速やかな対応を取ってくれるはずとの期待がある、からです。

ただ、中国恒大集団がデフォルトに陥っても世界的なパニックにつながることはないかもしれませんが、苦境に立たされているのは中国恒大集団だけではなく、第2、第3の恒大があります。不良債権処理で現金化のための不動産の投げ売りが続き、債務を抱えた不動産の資産価値が下がる中で、金融機関は債権・ローンを放棄し、投資家は投資商品の大幅な元本割れを受け入れなければなりません。

日本では、金融機関の貸し渋り、貸し剥がしで経済の収縮を招き、「負の資産」の処理に10年以上かかりました。中国政府も処理に困難を極めることが予想されます。株式市場の楽観的な見方が砕かれ、中国経済停滞の長期化を懸念しての悲観に振れる展開を想定し、「そうなったらどう行動するか」を検討しておいたほうがよいでしょう。