今月の視点 2023年1月

ドル円相場は米インフレと景気後退の綱引き

●日銀の修正で正常化に向かうか

日銀は昨年12月20日の金融政策決定会合で、国債買入れ額を増額しつつ、長期金利の変動許容幅を、従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大することを決定しました。黒田総裁が昨秋9月、「許容幅拡大は事実上の利上げ」と述べており、日銀が金融政策を修正するとしたら、総裁交代予定の4月以降になるとマーケットは見ていたので、この決定はサプライズとなりました。

黒田総裁は、事実上の利上げと指摘する声に対して、債券市場の機能が損なわれる状況が出てきたための部分的な修正であり、金融政策の転換ではないとしました。日銀が10年国債利回りを0.25%の上限金利に抑えるために無制限の国債買入れを継続した結果、10年の利回り水準だけ凹み、それよりも短い期間9年が0.4%、長い期間15年が0.8%という状態が放置されました。その結果、最近の債券市場では10年国債への投資妙味がなくなり、取引が成立しない日が増えていました。

10年国債は大きな金額であってもいつでも売買できる最も流動性の高い安全資産で、機関投資家や外国人投資家が100億円以上の単位で売買していた対象です。その取引が成立しない異例の事態に、「市場機能が失われている」と強い危機感が出始めていました。

その懸念を取り除くため、0.25%の上限水準を0.5%に修正し、加えて、期間10年前後の国債も買入れ対象としました。対象を増やすことで生じる可能性のある利回りの歪みを整えるために、買入れ額も増やしました。したがって、この決定は金融緩和から引き締めへの政策転換とは言えず、債券の市場機能を回復させるための修正だと私も思います。

1ドル=140円台に乗せた昨年9月、インフレ抑止で政策金利を引き上げる他国とのスタンスの違いから、円安放置と日銀の無策を責められた時がありましたが、黒田総裁は「利上げは必要ない」と言い切りました。当時、日本と同じようにマイナス金利だったスイスはインフレ抑止のために利上げを行い、昨年6月、9月、12月と▲0.75%から1%まで3回利上げしています。利上げに踏み切っていれば日銀も同様の道を辿ったでしょう。結果、日銀は利上げに踏み切ることなくドル為替を152円から130円台まで引き戻すことができ、想定した以上の成果を得たのかもしれません。

さらに今回の決定で、債券市場にゆがみを来たす事態になったら、変動許容幅を動かすことにより機能回復を図る前例を作ったことで、景気先行きの見方次第で長期金利が上下する、「金利は景気の体温」という債券市場が正常な姿に向かう期待が持てるようになりました。

●23年のドル円相場も大きく動く

そういう意味では、4月以降、次期日銀総裁がどんな舵取りをしていくか、正常化に伴い長期金利がどの程度上昇していくかが気になりますが、昨年末の決定はマーケットが正常な姿に向かう動きと前向きに捉え、必要以上に影響を不安がる必要はないでしょう。
マーケットの動きで重要なのは、世界で一番余裕がある国「アメリカ」がインフレを抑えて、順調な景気回復の道に戻れるかどうかだと思います。下図は米10年国債利回りとドル円為替の推移です。ご覧の通り、米10年国債利回りとドル円為替はほぼ同じ動きをしています。私は、米10年国債3%は1ドル130円、3.5%は1ドル135円というようにリンクしていると考えています。

米連邦準備制度理事会の見通しは、今年は3回ほど追加利上げを行い、高い金利水準を維持した後、2024年に利下げを行うというもの。一方、マーケットは、米国景気の後退を背景に、今年後半には利下げへ政策転換を行うと見ています。追加利上げは米長期金利の上昇要因、景気後退は逆に低下要因。米国のインフレや景気動向の見方はブレやすく、今年も引き続き、為替・金利の値動きは大きくなるでしょう。

最後に今年のドル円相場の動きをやや具体的に考えてみます。今年に入り、現在、米10年国債利回りは3.56%なので、ドルの妥当水準は135円60銭。そして1ドル132円台なので、この水準のドルは円に対して割安な水準だと考えます。

円高・ドル安の下限は、景気に良くも悪くもない中立的水準とされている2.5%を是とすると1ドル=125円。3月までには米10年国債利回りが4%程度で推移することが多くなると私は想定しているので1ドル140円前後が中心の動きとなり、米インフレと景気後退の見方で振れる金利の変化に連動する形で130円から150円の間を大きく行ったり来たりする、という展開を私は想定しています。

今年は米国短期金利が5%を超えて高止まりする環境を前提にして、「何に投資したら良いか」「何への投資は控えたら良いのか」を考え、割安な状況にある投資対象を拾って貯めていく、将来の資産づくりのために大事な年になると思います。