今月の視点 2022年12月

超円安でも米ドル社債がお勧めのワケ

金利上昇で価格が下落する債券にとって、2022年は厳しい投資環境でした。3月に米FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ抑制に向け利上げを開始して以降、米10年国債利回りは2.1%から4.2%まで上昇し、ドル円は118円から151円まで円安・ドル高が進みました。

米ドル建て債券に投資している場合、金利上昇で債券価格は下落しましたが、為替が大きく円安・ドル高に振れた結果、円換算ではプラスの成果を残せた方も多いでしょう。2023年の米ドル建て債券はどうなるかを考えてみます。

米FRBパウエル議長は、FOMC(連邦公開市場委員会)による6月以降4会合連続となる0.75%の政策金利引き上げが決定された11月の声明で、次回12月の会合での利上げペースの緩和に言及した一方、今後の利上げについて、ペースの緩和よりも、当面の金利水準をどの辺りに落ち着かせるか、引き締めをいつまで続けるかのほうが、重要な問題になったとし、物価上昇を2%に戻す見込みが立つまで高い金利水準を維持する姿勢であると強調しました。

すでに、金利引き上げが景気後退の色を濃くしています。米30年固定住宅ローンは10月に7.08%と2002年以来の高水準となり、全米不動産業者協会(NAR)が発表した中古住宅販売件数は、統計開始以降最長の9ヶ月連続減となりました。

11月30日現在、米国債券市場では、今後も政策金利が5%を超える水準まで追加利上げがあることを前提に、2年国債利回りが4.32%で高止まりする一方、10年国債利回りは先行きの景気後退を読み込み3.61%まで低下しています。

●景気後退織り込むハイ・イールド債

ここで注目したいのは、米国ハイ・イールド債市場です。ハイ・イールド債とは、償還までの期間に、利子・元金の支払いが滞るデフォルトの可能性が比較的高い債券です。

景気後退懸念が高まると、①信用リスクが大きいハイ・イールド債が早い時期から売られて金利が上昇、②デフォルトの件数が増え、さらに金利が上昇、③景気後退が進行する中で10%を超えるなど金利が高くなったハイ・イールド債の中から、デフォルトリスクに見合うものが投資対象として物色されるようになると、ハイ・イールド債の金利は一気に低下し始めます。

このように、ハイ・イールド債の金利は、景気後退の前兆、そして、金利ピークアウトの前触れを示すことがあります。
状況を比較すると、過去の米ハイ・イールド債平均デフォルト率は4.7%ですが、今年10月現在では0.83%とまだ少ない状況です。また、ハイ・イールド債の現在の金利は、FRBが利上げを開始した3月の4%台から、景気後退を先読みして、既に9%程度の水準まで上昇しています。今後さらなる金利上昇があるかもしれません。実際、2008年金融危機の際には20%程度まで上昇したことがありましたが、その後のユーロ危機、チャイナ・ショック、コロナ危機では10%程度の上昇までだったので、現在は魅力的な水準に入ってきたと言えるでしょう。前出①の状況にあると考えます。

●2023年は米ドル債投資の機会

11月30日に楽天グループが米ドル建て社債を発行しましたが、期間2年で12%複利利回りという条件でした。米格付け会社S&Pは楽天グループの格付けを「ダブルBプラス」とし、ハイ・イールド債としました。期間2年で破綻はないだろうと考える投資家であれば検討できる水準です。

他方、「年4%程度のリターンがあれば十分」と考えるのであれば、破綻リスクを抱えたハイ・イールド債に投資しなくても信用力の高い米ドル建て社債への投資で十分です。 現在は、同期間における米国国債と比べて社債のほうが1~1.5%程度高い水準で投資できるからです。

例えば5%複利利回りの社債で5年運用したら元利金は約1.27倍になります。1ドル140円で投資した場合、5年後に110.23円(=140円÷1.27倍)より円安であれば、円換算で損しない米ドル資産運用をしたことになります。つまり、「1ドル110円ぐらいまで大丈夫ならドル資産を持ちたい」と考えるなら、現在の為替水準でも投資を検討できるほど米ドル建て社債の利回りは魅力的な水準にまで上昇してきました。FRBが高い金利水準で政策金利を維持しそうな2023年は、米ドル建て債券への投資を検討できる良好な機会が続くと想定します。