今月の視点 2023年5月

銀行の破綻懸念、再燃はあり得る

●MMFへの資金流入は今後も続く

3月に欧米の複数の銀行が破綻したことで、米国では金融システム不安が高まる場面がありましたが、当局の迅速な対応で、ひとまず落ち着いてきました。

その一方で、金融不安が高まって以降、金融機関からの預金流出は続いています。銀行の破綻を受けて、米国の預金保険の上限額(25万ドル)が意識され、大口の預金者がMMF(マネー・マーケット・ファンド)に資金を移しているからです。

MMFは格付けが高く満期の短い国債や社債などに投資する投資信託で、米投資信託協会(ICI)によると、4月12日時点のMMF残高は5.28兆ドルと1年前から7500億ドル(約100兆円)も増えており、うち半分は米シリコンバレーバンク(SVB)破綻後の5週間で増えたそうです。

日本国内で販売されている米ドル建てMMF「ニッコウMMF USD」の7日平均年率換算利回りの推移を参考にすると、2022年3月に米政策金利が最初に引き上げられた頃の利回りは0.07%でしたが、同年末には3.6%前後、今年4月21日時点では4.15%まで上昇してきました。一方、米大手銀行の米ドル普通預金金利は0.01%。これだけの金利差があり、しかも、MMFの高利回りに預金者が気づいてしまったわけですから、預金からMMFにシフトする流れは止まりません。

ネット証券を展開する米金融大手チャールズ・シュワブでは、投資待機資金の置き場として預金サービスを提供しています。今年3月期末の預金残高は22年末比11%減の一方で、MMFは28%増と大幅に増えています。預金が減ってもMMFが大幅に増えているのであれば問題無いように見えますが、預金は銀行の資産であり、MMFは顧客の資産ですから、預金の流出分は他で資金調達して埋める必要があり、安穏としてはいられません。

そもそもSVBは、いつ引き出されてもおかしくない預金で集めた資金を長期の運用に回し、しかも投資した先が大きな評価損を抱えている状況が明らかになったため取り付け騒ぎが発生し、破綻したのです。

さらに各金融機関は、米連邦準備制度理事会(FRB)などの金融当局から、運用資産の内容、評価損益など細かいチェックを受けているので、不良債権化している資産を減らそうと一斉に動いています。そう動くことが、預金者に安心して預けてもらうことにもつながるからです。

今後、銀行の融資態度が厳しくなる先として「商業用不動産」が挙がっています。

商業用不動産とは、オフィスや店舗などの事業用不動産のことです。商業用不動産は銀行から融資を受けて開発や運営が行われています。しかし、コロナ禍の影響で、テレワークやオンラインショップなどの需要が増えたため、商業用不動産の空室率が高まり、賃料が下落し、収益性が大きく低下しています。そのため銀行は、融資基準を厳格化して、貸し渋り・貸し剥がしに動くと見られています。

●自前で資金調達できるアピール

過去の例では、銀行の融資態度が厳しくなると社債発行が増えてきます。「銀行融資に頼らなくても資金調達が可能」と、企業が金融機関や投資家に対してアピールするためです。

多くの企業が一斉に社債発行での資金調達に動くと、資金が調達しにくい中での発行ですから金利は高めに設定せざるを得ません。金利は景気後退で低下するという見方もありますが、社債の利回りは、当面、高止まり傾向が続くと私は思います。

このように、企業側が「債券を買ってください」とアプローチする時の社債発行条件は、投資家にとって有利になりやすく、「この発行体でこの水準の利回りだったら」と、検討に値する社債が出てくる機会が国内外で増えてくるかもしれません。

一方で、社債発行ができず、融資も受けられず、資金繰りに詰まって破綻する企業が増える可能性も高くなりました。貸し渋り・貸し剥がしが元で破綻した企業の不良債権処理が負担となり、金融機関の破綻が懸念される事態が、この先しばらくしてから再燃する可能性も頭に入れておく必要があるでしょう。