今月の視点 2023年12月

日米金利差で円安基調は続くが円高に急変する波乱もあり

●経済指標で一喜一憂する展開

2022年、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレを抑え込むために政策金利を引き上げ始めた3月以降、世界的にゼロ金利の時代から金利がある時代へと変わってきました。その経過を振り返ってみましょう。

米国の2年、10年、20年国債の利回りとドル円為替の推移を見てみます。引き上げ前の2022年1月末の国債利回りは、2年1.185%、10年1.784%、20年2.184%、ドル円為替は115円10銭でした。しかしその後、FRBが政策金利を引き上げ続けた結果、同年10月には2年国債の利回りが4.6%と、10年国債や20年国債の利回りよりも高くなる逆イールド(短い期間の金利が長い期間の金利を上回る)状態になりました。同時に、ドル円為替は150円台に乗せましたが、日本政府による為替介入が入って反転、127円台まで円高が進みました。

逆イールドが発生すると、経験則では約1年から2年先に景気後退に陥ることが多いと言われています。

この辺りから「景気後退を懸念してリスク資産が売られる」として株価の下落を予測する見方と、「深刻な景気後退を回避するために金融引き締め策の転換は近い」として株価の上昇を期待する見方とが交錯することが多くなりました。

2023年7月、FRBは政策金利を5.5%に引き上げて以降、「必要とあれば更なる引き上げも」と引き締め姿勢は維持しつつも、政策金利はそのまま据え置いてきました。

マーケットでは、FRBが政策金利を引き上げる余地はあまり残されておらず、今後の金利動向を決めるのはFRBではなく、消費者物価、景気動向指数、失業率の数値次第との見方が優勢で、指標の動向に一喜一憂して反応する不安定な投資環境になりました。

政策金利の据え置きを決めた8月以降は、2年国債利回りが5.0%程度で推移する一方で、強いインフレの数字や米国の格付引き下げ懸念などで長期金利は急上昇し、10月下旬には10年国債、20年国債、30年国債に至るまですべて5%を超え、さらなる金利上昇を懸念する事態も発生しました。

●日本の格下げ懸念で円高に大きく振れる可能性

金利がこのようにマーケットの需給次第で大きく動くことが多くなれば、当然、為替も同様の動きになります。

最近では、10月の米CPI(消費者物価指数)の前年同月比上昇率が3.2%、エネルギーと食品を除くコア指数上昇率が4%で、ともに市場予想を下回ったのをきっかけに、政策金利の引き下げ開始時期が早まるという見方が一気に高まって、株価は大幅に上昇し、米10年国債利回りは4.4%まで低下、ドル円為替は一時147円台まで円高に振れました。

世界の金利の基準となる米国債利回りが短期間で大きく上下すれば、グローバルな投資環境も不安定な展開が続くでしょう。私は、米国の長期金利はインフレ懸念が収まるまでは高止まりが続いて、日米の金利差を背景にドル円為替が大きく円高に進む可能性は小さく、当面、米国国債10年の利回りは4%~5.5%、ドル円為替は140円~155円を短期間に上下する展開が繰り返されると想定しています。日本の金利が大幅に上昇し、円高に振れることがあるとしたら、それは日本の格付引き下げ懸念が高まるときだと考えています。

格付とは、国や企業などの信用力や債務の元利金が約束通り支払われるかどうかの確実性をAやBBBなどの記号で表し、格付会社によって評価されます。

ちなみに、日本国債の格付はA+です。最高格付はAAA(トリプルA)で、以下、安全度に応じてAA、A、BBB、BB…が付けられ、BBB(トリプルB)以上の債券を投資適格債、BB(ダブルB)以下は投資不適格債とされ、投資不適格債はデフォルト(債務不履行)のリスクが高いことを意味します。

11月17日、イタリアの格付をムーディーズという格付会社が投資適格債の下限であるトリプルBに相当する「Baa3」に据え置きました。3カ月前4%程度だったイタリア10年国債利回りは格下げ懸念の高まりから5%まで急騰し、据置が決定して一気に4.4%まで低下する乱高下がありました。

日本も他人ごとではなく、「日本の格下げ懸念→長期金利急騰→円高」の連想で、金利・為替が短期的に乱高下する展開もあり得ると考えておいたほうがよいと思います。