今月の視点 2024年1月

2006年頃の環境を参考に今後を考える

最近米国では、懸念されていた景気後退が深刻なものにはならず、ソフトランディングするとの期待が高まっています。これは米国のインフレ率が鈍化していることや、これまで「インフレを退治するには一時的な景気後退に陥っても仕方がない」と金融引き締めに強い態度を示してきたFRB(米連邦準備制度理事会)関係者から、ソフトランディングを匂わせる発言が相次いだからです。

これを受けて、2023年10月下旬に16年ぶりに5%まで急上昇した米10年国債利回りは、逆に3.8%台まで急低下しています。専門家の間では、金利が再び5%をめざして上昇する展開があるのかどうかについての見方は割れていますが、私は、もう一度、米国を主体にグローバル金利が上昇する展開を想定しています。

●2006年当時と似通う金利環境

米10年国債利回りが5%まで上昇した2006年前後の米国長期金利と米国株式、そして米国失業率の推移を参考に振り返ってみましょう。

2004年頃から世界経済の拡大とインフレ圧力が高まり、米国ではイラク戦争やハリケーン・カトリーナの復興費用などで財政赤字がかさんだため、国債の発行額が増えていました。FRBは、2004年6月から2006年6月まで17回連続で利上げを行って政策金利を5.25%まで引き上げ、その環境下で、米10年国債利回りは5%まで上昇しました。

今回と同様に、短期金利が長期金利よりも高くなる「逆イールド」状態となり、その先の景気後退を懸念する見方が生じ、実際にその後、米金融危機へと向かいました。

金融引き締めの効果は時間差で現れます。失業率が上昇するなど目に見える数字が出てくるまでには、米国債利回りが5%まで上昇した後1年以上かかっていることがわかります。

2023年はモノの価格上昇が目についた年でしたが、2024年はサービスの価格が上昇すると言われています。日本では、郵便切手に続き、旅客運賃の上昇が考えられます。

実際FRBも、2024年には物価上昇率の鈍化を予想するも、「2%」のインフレ目標を上回ると予測し、賃金の上昇や需要の回復によりサービス業への価格転嫁が進むと見ているようです。

したがって2024年は、高インフレを示す数字の鈍化はあるものの、2%という目標を目の前にすると、「追加の引き締めがあり得るかも」とインフレの再燃も懸念されます。そういったまだら模様の経済指標にマーケットが振り回される展開が、米国債利回りが5%をつけた1年後の10月頃までは続くのではないでしょうか。

  • 金利が上昇しやすくなる環境に

2006年4月に米10年国債利回りが5%をつけた後、低下し、2007年6月に再び5%をめざして上昇する展開がありました。今回も同様に、もう一度5%をめざす動きが出て、その後は失業率の高まりなど景気後退を示す数字などを背景に、安定志向の資金が国債に向かい、3.5%程度の利回りに落ち着くといった展開を想定しています。

世界の金利の基準である米10年国債利回りが、短期間に5%から3.5%の間を上下すれば、それに合わせて為替も大きく振れ、当然、株価の乱高下につながりやすくなります。

加えて、景気後退時に増えてくる国や企業の格下げの話も金利を大きく変動させるきっかけになります。

コロナ禍で景気を支えるために行われた各国の財政出動で、各国の財政事情は悪化。直近では主要国の中でも、米国、イタリア、中国で格下げ懸念が高まりました。結果的には据え置かれましたが、今後改善する見込みは薄く、いずれまた格下げ話が持ち上がる可能性が高いでしょう。日本も他人事ではなく、格下げの対象国としてターゲットになることもあり得ると思います。

格下げを回避するためには、無駄な支出を抑える緊縮財政を強いられ、中央銀行が金利抑制のため徹底的に市中の国債を買い上げるといったことも困難になります。

FRBを含め、主要中央銀行が金利を抑え込む役割を果たしにくくなった今、羅針盤を失ったマーケットはムードに翻弄されやすく、金利が上昇しやすい環境になったと思われます。