今月の視点 2024年7月

2%未満の個人向け社債の条件なら妙味なし

●個人が金利への関心を高める時

投資相談を受けている上での印象ですが、個人投資家には「1%の壁」というものがあると考えています。1%以上の確定利回り商品が増えてくると、金利への関心が急に強くなり、より高い利回りで運用したいとの意欲が高まるようです。

マイナス金利だった日本でも、日銀の政策修正をきっかけに長期金利が1%を超えてきました。黒田前総裁は強引に金利を低く抑えて景気の回復を図ろうとしました。しかし、植田総裁に代わってからは、徐々に長期金利の上昇を容認、2024年3月、ついにマイナス金利の解除と長期金利を抑え込む長短金利操作(YCC=イールドカーブ・コントロール)を撤廃しました。

日銀が国債を無制限に買い入れて金利を抑える姿勢を改め、マーケットの需給による金利の変動を容認すれば、当然金利はあるべき水準を目指して上昇していきます。植田総裁の就任以降、長期金利の上昇は続き、30年国債利回りは2%台、10年国債は1%台になり、上昇スピードは早まっています。

国債はすべての金利の基準です。金利が上昇してくると、銀行はまず、借入先の破綻を心配して融資の姿勢が厳しくなります。資金を必要とする所に資金が届き難くなる、いわゆる、貸し渋り・貸し剥がしが起こりやすくなります。

そこで増えてくるのが社債の発行です。資金を得る目的だけではなく、銀行融資に頼らずとも社債で資金調達できる企業であることを示せれば、銀行からの融資を受けやすくなりますし、投資家にも安心して投資してもらえるからです。

私はかねてから、ソフトバンクグループ(SBG)による個人向け社債の発行タイミングと条件に注目してきました。一般的には、1%程度がせいぜいだった個人向け社債の利率条件を、SBGはこの3月に、期間7年で利率3.04%と一気に引き上げました(発行額5500億円)。続いて6月にも同期間・同発行額で、利率3.03%の発行に踏み切りました。国内の個人向け社債の発行額は通常100億円程度なので、発行規模も桁違いです。

そこで、この利率3%台の社債を例に、投資に際してどこをチェックすべきかを説明します。

●債券が確定利回りになる条件

いつ換金しても元本割れがない預金とは異なり、債券は中途換金するとその時の金利環境で損益が発生します。売却する際の買取り価格は債券を販売した証券会社等が提示する言い値です。大抵の場合、中途売却は損になると考えておいたほうがよいでしょう。債券投資が確定利回りになるのは、発行体が破綻せず償還まで保有できた場合です。

社債への投資は企業にお金を貸すことなので、SBGは償還までの7年間、破綻せずお金を返してくれる先であるか。そして、あなたの投資する資金は7年間、中途換金しないですむ資金であるか、を確認します。さらに、社債の利率の高さが償還まで資金が拘束されるリスクに見合うものであるかも検討しましょう。

この場合、変動金利型10年個人向け国債(以下、個人向け国債)と個人向け社債の条件とを比較するとさらにイメージしやすくなります。購入後1年間、個人向け国債は解約できませんが、1年経過すれば、社債とは異なり、政府が額面での買い取りを保証し、損せず換金できるのが大きなメリットです。

たとえば1年後、株価の大幅な下落など株式投資に絶好のチャンスが訪れても、保有する金融商品の価値が下がっていれば、それを売却して乗り換えるのに躊躇してしまいます。個人向け国債なら損せずに乗り換えることが可能です。

利率の条件は、新発10年国債利回り×0.66%で計算され、半年毎に見直されます。6月募集の10年個人向け国債の利率の条件は0.69%でした。今後、10年国債利回りは30年、20年の国債利回りに連れて1.7%程度まで上昇すると見込んでいますが、0.66をかけると1.1%程度です。

私自身は、今後の金利上昇の恩恵があり、将来の割安な投資機会にも充当できる個人向け国債と比較したうえで、SBGの利率3%台の条件には投資妙味があると感じました。一方、利率が2%に満たない個人向け社債には妙味なしというのが私の率直な感想です。