「資産価値を守る」を優先する投資環境になる
9月27日夕方、自民党の新総裁に石破茂氏が選出されると、1ドル146円台半ばだったドル円相場は142円台まで円高ドル安に、日経平均先物の夜間取引では、日中の終値から2千円超と大幅に下落しました。
こうした大きな変動は石破新総裁誕生がきっかけにはなりましたが、経済データを見ながら金融政策を決めていくとする日米の場当たり的な金融政策で、マーケットが不安定化していることが背景にあります。
利下げで安堵するFRB、利上げしたい日本銀行
9月、米FRB(連邦準備制度理事会)は、政策金利を当初予想されていた0.25%ではなく、あえて0.5%と大幅に引き下げる判断をしました。
パウエルFRB議長は、かねてより「インフレは落ち着いてきた。大きな景気後退にはならない」と、これまでの金融政策の舵取りに自信を示してきました。しかし、短期では目標のインフレ率2%に抑え込むことが難しくなると、突然、労働市場の軟化を理由に、9月に利下げを行うことを示唆しました。
政策金利高め維持の政策を続けている間に、FRBが否定していた深刻な景気後退を招いてしまう事態を避けるため、金融引き締め策に早く区切りをつけ、利下げをしておきたかったのだと思われます。
今回、0.5%に幅を広げたのは、さらに利下げが期待される11月、12月に利下げを見送っても、マーケットの混乱が大きくならないように配慮したのでしょう。
米国のインフレ率の上昇が抑制的に推移し、深刻な景気後退が発生しないのであれば、米国金利は昨年10月のように大きく上昇することはありません。しかし、今後は景気回復を期待したインフレが再燃して、1ドル150円台のドル高・円安基調に戻る可能性が高いと予想します。
逆に、米国の労働市場の軟化が進み、深刻な景気後退に向かう懸念が高まると、米国だけではなく、グローバルに景気後退懸念が広まります。高値警戒感のあるリスク資産が大きく売られ、安全資産、特に米国国債が買われて大幅に利回りが低下するなど、グローバルにリスクを回避する展開になる可能性が高くなります。
金融引き締め策の転換を急いだFRBに対して、金利の正常化に踏み出した日本銀行は、追加利上げを行う機会を探ってはいますが、厳しいと言わざるを得ません。
日銀が7月に利上げを実行できたのは、1ドル160円台という急ピッチな円安によるコストプッシュインフレで国民の日常生活に大きな支障が出ていて、日米政府ともに利上げに理解があったからです。現在の為替水準は当時に比べてだいぶ円高水準で落ち着き、さらに円高へ向かうという見方もあります。追加利上げに踏み切るには、再び1ドル160円台に向かう為替環境になるなど、大義名分が整わないと難しいでしょう。
債券の組入を増やす投資環境に
私は、米10年国債利回りとドル為替との関係を見て、今後の金利・為替環境の展開を次のように予想しています。米10年国債利回りが3%の時は1ドル130円、4%の時は140円といった具合です。
現在は米10年国債利回りが3.7%、1ドル142円ですから、3.7%を妥当とすれば137円程度の円高はあり得る、142円が妥当とすれば4.2%程度までの金利上昇はあり得ると想定しているからです。
これまでは、米国の政策金利の大幅な引き下げを見込んで米国長期金利が先行して低下し、ドル円の水準が遅れてドル安・円高に反応してきた流れでした。
したがって、米国で想定したほどの引き下げが起こらず、日本の利上げも遠のき、大きな日米金利差が残ったままで当面推移するという見方に変われば、米10年国債利回りの低下基調は反転し、円高よりも円安に振れやすくなります。大きく為替や金利が上下する環境では、高値警戒感のあるリスク資産の動きは今以上に不安定になります。
そこで今後の日本の投資家行動は、大きな値上がり益よりも「資産価値を守る」ことが優先され、株式投資の割合を減らし債券投資の割合を高める傾向が強まるでしょう。
多くの日本人の資金が世界株式や米国株式に向かったように、今度は世界債券や米国債券にシフトする動きになると、円安・ドル高基調は新たなステージに入ると思います。
2024年9月30日記