今月の視点 2025年6月

国内長期金利上昇がもたらす影響と今後の展望

日本の長期金利は上昇基調にあり、超長期とされる20年以上の債券で特に30年国債の利回りが3%に達するなど、これまで長く続いた低金利環境からの転換局面を迎えています。今後の国内金利の動きについて考えてみましょう。

長期金利が上昇した背景と影響

長期金利の上昇には、①欧米の金利動向、②日本銀行の市場容認姿勢、③超長期国債の需給のバランス、が関係しています。

欧米では物価高の影響を受け、先行して長期金利が上昇しており、日本もその動きを追う形で上昇してきました。

さらに、日本銀行の金融政策も変化しました。かつては長期金利を抑えるため、市場から国債を無制限に買い付けるなど、積極的な介入を行っていましたが、現在はマーケットの需給による金利形成を容認する方針を取っています。特に超長期国債の買い手不足で、金利が上昇するスピードが上がってきました。

過去3年間で、30年国債利回りは1%から3.2%まで上昇し、それに伴って債券価格は下落しました。その結果、3年前に発行された「2052年3月償還(利率1%)」の30年国債は、発行価格の100円から64.81円まで大きく値下がりしています(5月21日時点)。

これまで、長期の運用が可能な生命保険会社や海外投資家が、20年を超える超長期国債に積極的に投資していました。しかし、含み損が拡大した現在、新たな投資に慎重な姿勢を取る投資家が増え、売り圧力がかかると金利が急上昇しやすい、不安定な状況が続いています。

国債は国の借り入れであり、国債利回りは住宅ローンを含む国内の借入金利の基準となります。金利の高止まりが続くと、金融機関は貸出先の破綻や不良債権の増加を警戒し、貸し渋り・貸しはがしを強めることになって、個人や企業の資金調達環境が悪化する懸念があります。

こうした事態を防ぐため、財務省は債券マーケットの安定化に向けた施策を検討しています。例えば、機関投資家に対して、「超長期国債の発行額がマーケットの負担になっていないか」とヒアリングを実施し、発行計画を見直そうとしています。

また、金利上昇が投資家にとってプラスになる変動金利型国債を、現在は個人向けに販売していますが、対象を財団や小規模企業にも広げて国債の需要を増やしていくなど、機関投資家への国債購入の依存度を下げていく動きもあります。

このように財務省は、国債発行計画がマーケットの負担になり、過度な金利上昇を引き起こすことがないよう、配慮し始めているのです。

超長期金利3%が転換点となるか

私は、為替リスクがなく、安全資産とされている日本国債の利回りが3%まで上昇すれば、他国の国債と比べても十分に魅力的な水準になったと考えています。

金利は際限なく上昇するわけではなく、マーケットが「行き過ぎた」と認識することで転換点を迎えます。次のポイントは、国債への投資の魅力を伝え、需要を喚起することです。

日銀は現在、債券マーケットの安定化を目的として一定額の国債を買い付けています。これをさらに増やすことで、金利上昇を抑制すべきだという専門家の意見があります。

しかし、私は総額を増やさなくても、「15年を超える超長期国債の買い入れの割合を増やす」と示すだけでも、日銀の意向を明確に発信できると考えます。こうした取り組みは、「超長期国債の利回りは十分上昇しており、これ以上の過度な上昇は行き過ぎ」という強いメッセージとなるでしょう。

とはいえ、欧米の金利動向との整合性もあり、国内金利が短期間で大きく低下する可能性は低いと考えます。むしろ、超長期金利との比較から、今後、中短期の金利は最低1%を意識しつつ上昇が続くと想定されます。

また、個人の預金金利は国債利回りと比較して、著しく見劣りする水準にあります。これにより、金融機関は預金からの流出を防ぐために、預金金利の大幅な引き上げを余儀なくされるでしょう。結果として、やっと預金金利も「金利がある世界」に戻る可能性が高いと考えられます。