今月の視点 2022年7月

金融緩和余地を手に入れた米国市場の魅力

多くの中央銀行が政策金利を続々と引き上げる中で、「インフレは一時的なもの。引き上げる必要なし」とする日本銀行が目立っています。

米連邦準備制度理事会(FRB)は3月に0.25%、5月0.5%、6月0.75%と3会合連続で政策金利を引き上げ、パウエルFRB議長は、「インフレ抑制に大きな進展が見られるまで引き上げを続ける。我々が犯しうる最悪の過ちは、インフレ抑制に失敗することだ」と強く訴えました。

日本と同様に金融緩和を長らく続けていたスイス国立銀行は、6月16日に予想外の利上げに踏み切り、欧州中央銀行も7月に利上げを行うと表明しています。

今回の世界的なインフレは、供給不足を背景に発生しました。2021年以来、コロナ感染沈静化期待による人・モノの動きの回復を見込んだ需要増に、供給が追いつかない事態となっています。人手不足、サプライチェーンの停滞、電力不足で、資源価格・賃金コストが上昇、加えてロシアのウクライナ侵攻、欧州を中心とするロシア依存度低減政策の遂行で、インフレに拍車がかかりました。
旺盛な需要増によるインフレであれば、過剰な消費・投資を牽制する金融引き締め策は有効ですが、供給不足による場合は、不足している資源や人手、インフラの整備といった根本原因の改善がなければ、インフレ抑制に限界があります。

そのため、当初、FRBは「インフレは供給不足による一時的なもの」として、日銀と同じ対応を取っていましたが、その後、賃金上昇を伴う8%を超えるインフレ率を見るに至って、放っておくわけにはいかないと強力な引き締め策に転換しました。

「経済の軟着陸は難しい」米国

パウエルFRB議長は6月23日に行われた議会証言で、「利上げでガソリンや食料品価格の上昇は抑えられない」「経済の軟着陸は非常に難しい」「米景気後退のリスクはある」と答えています。FRBは「米国が深刻な景気後退に陥らないように、今は強力な引き締め策を継続する。そのためには一時的な景気停滞もやむを得ない」と考えているのかもしれません。

米国債券市場では、将来を先読みして動く10年国債利回りが先行して上昇、現在の動きを反映する2年国債利回りが急速に追いつくなど、FRBの大幅な利上げ継続を受け止め、相場に織り込んできました。一方で米国株式市場は、「引き締めで株価や不動産価格が大きく下落したら、FRBはスタンスを変えて支えてくれるはず」と、未だに緩和政策に対する転換期待が残っているようです。
私は、FRBがスタンスを緩和に戻すのは、旺盛な消費の背景になっている株価・不動産が大幅に下落し、その後、需要増によるインフレが確かに収まってきたという数字を確認できてからであると考えるので、株価・不動産価格が大きく下落したとしても、反転して急上昇するのではなく、底から時間をかけて徐々に上がっていくと想定しています。

景気後退時の対応で差が出る

日本のインフレは、米国のように賃金が上がる気配もなく、需要が増えたためのインフレでもなく、大幅な円安進行による輸入インフレです。

日銀・政府は急ピッチな円安進行に手を焼いているだけで、「円安がこのペースで進むはずがない。様子を見ているうちに円高基調になれば緩和策を転換しなくて済む」と円安基調の嵐が収まるのをジッと待っているように見えます。しかし、日銀が金融緩和を維持したことが、市場にとって良い結果を招くのでしょうか。

市場にとって重要なのは、世界的な金融引き締めで景気が後退した後の対応です。米国は短期間に政策金利を引き上げて、資産の買い入れを止めたので、景気を浮揚するための政策金利の引き下げ余地と国債等を買い入れる余裕を手に入れたのです。逆に日本の場合は、政策転換による景気浮揚は今後もあまり期待できないかもしれません。

米中、米欧とロシアの分断は続き、再生エネルギーへの転換、サプライチェーンの整備には時間がかかるので、世界に広がったインフレの火種はしばらくくすぶる可能性もあります。金融引き締めでグローバルに株価・不動産価格が下落した際に、割安からの転換が早く来るのは、やはり景気浮揚の選択肢を多く持つ米国市場からではないでしょうか。