今月の視点 2022年8月

景気後退、回復の予兆を示すハイ・イールド債

  • 円急騰し、米国金利は急低下

投資環境が振れやすくなってきました。ドル円相場は、7月21日に139円目前まで円安・ドル高に進んだと思いきや、8月2日には逆に131円を割り込む円高・ドル安に振れました。そして円の急騰より前に、日米金利差拡大で注目されていた米国10年国債利回りが、6月14日に3.5%程度まで上昇した後、29日に2.6%程度まで急低下しました。

このきっかけは、7月26日、27日に開かれた米連邦準備制度理事会(FRB)で、連邦公開市場委員会(FOMC)が2会合連続となる0.75%の追加利上げを決定し、政策金利を2.25~2.50%としたことです。

パウエルFRB議長は会合後の記者会見で、今回の利上げは適切と考えているとした上で、次回9月の会合でも0.75%の利上げ幅が適切になるとの可能性を示し、利上げのペースは今後の指標や経済見通し次第だとする、あらかじめ想定されていた内容の発言を行いました。

つまり、FOMCの決定もFRB議長の会見内容も想定内だったにもかかわらず、米長期金利は早々と景気後退を織り込むように急低下、つれてドル円相場は大幅な円高ドル安へと反応したわけです。
マーケットではこれまでのインフレ抑制から景気後退に関心が移り、次回9月の会合では0.75%の利上げが行われるだろうが、11月、12月には利上げ幅を縮小し、2023年には逆に緩和への政策転換もあり得ると期待する見方も出てきました。

良い金利上昇が悪い金利上昇に

現在は、インフレの環境下で米国10年国債利回りの下限金利として、どの水準がはたして妥当なのかを探っている時期にあり、確認した後には、年末に向けて再び長期金利は上昇していくと私は想定しています。

9月に0.75%、11月、12月のいずれか会合での0.5%利上げを想定すると、年末の政策金利は3.50%~3.75%になります。今後の政策金利の上昇を考慮した場合、米国10年国債利回りが2.6%の現水準よりもさらに低下していくとは思えず、この水準を底に3%台を目指して上昇し、円ドル相場も日米金利差の拡大を背景に、1ドル130円を底に年末に向けて円安・ドル高の基調に戻る、と考えています。

これまでは、“景気が良くなる、モノ・人手不足(インフレ)で金利上昇”という「良い金利上昇」でしたが、今後は“景気後退、債務不履行リスク(信用不安)で金利上昇”という「悪い金利上昇」に質が変わる可能性が高いと思われます。

景気後退に入ると資金調達が困難になる企業が増えます。金融機関が貸し渋り・貸し剥がしで貸出先を選別するようになるからです。

機関投資家は破綻リスクを警戒して確かな先への投資を優先するため、債券市場では社債が売られ、国債のほうが買われやすくなります(社債金利上昇、国債金利低下)。

米国10年国債利回りと米国ハイ・イールド債利回りの推移を紹介しましょう。ハイ・イールド債とは、償還までの期間に、利子、元金の支払いが滞るデフォルトの可能性がある債券で、ご覧のようにFRBが利上げを開始した3月から利回りが急騰しています。ハイ・イールド債の金利上昇は、危険を知らせる炭鉱のカナリアのように、景気後退リスクの前兆とされています。

注目は、①米国10年国債と米国ハイ・イールド債の利回り差がどの程度開いているか、②米国ハイ・イールド債のデフォルト率の水準の高さ、です。利回り差の平均は5.2%。
ちなみに、7月22日現在ではハイ・イールド債が8.01%、国債が2.78%。差は5.23%で平均的水準です。8%程度に開くこともあります。

デフォルト率の平均は4.7%。現在は0.76%。10%程度まで高まるときがあります。今後、デフォルト率が高くなっていく、破綻する企業が増えていくものと予想します。

今後、デフォルト率は高まり、つれて国債との利回り差は広がると想定されますが、デフォルト率はいずれピークをつけて、ハイ・イールド債の利回りも低下基調に入ります。そして、その時は景気回復の予兆でもあります。景気後退、景気回復の予兆を示す米国ハイ・イールド債の動きに注目しましょう。