今月の視点 2022年6月

円安対策で、個人は外貨投資に向かうか?

インフレ退治を意識した米連邦準備制度理事会(FRB)の連続利上げは、マーケットに大きな乱高下をもたらしています。
FRBが利上げに着手した3月、ドルは115円台でしたが、5月には約20年ぶりの131円台まで急ピッチでドル高・円安が進んだ後、いったん126円台まで円高に振れました。為替相場だけではなく、米国株式市場も、ダウ工業株30種平均が8週連続で約3600ドル下落した翌週には、1951ドル上昇しました。米国のインフレや景気をめぐる不透明感は強く、こうした値動きの激しい展開が今後も続くという見方が多いようです。

円安基調を支える2つの要因

コロナ禍前から現在までの日本の貿易収支と経常収支の推移を見てみましょう。5月19日に財務省が発表した4月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は8691億円の赤字。赤字は9ヶ月連続で、輸出・輸入額ともに4月としては過去最高。エネルギー価格の高騰が輸入額を押し上げています。

ちなみに、海外との貿易や投資収益の状況を表す経常収支は、20年度は16兆円超の黒字でしたが、21年度の速報値では12兆6442億円と黒字が縮小。さらに、22年度は赤字に転落するという見方があるほど、経常黒字の縮小も加速しています。

この、毎月ベースで海外からの資金受け取りよりも支払いが多くなる状態が続いていることが、円安基調は今後も続くという見方の背景になっています。
円安が進めば輸入製品は値上がりし、消費を抑える行動に繋がりがちです。例えば、1ドル100円で買えたものが、1ドル130円出さないと買えなくなれば、全体の出費を抑えるために何かの出費を諦める人が増えるからです。
私は、この夏を過ぎても、1ドル122円を割り込む円高にならない場合には、「円安はしばらく続く。円資産だけでは生活が厳しくなるばかり」と、円を売って外貨を持つ形で円安への対応を急ぐ人が増えてくると予想しています。
個人の金融資産2023兆円(21年末現在)のうち、現預金が54%と半分以上あることはよく知られていますが、外貨資産の保有がどのくらいあるかをご存知でしょうか?

外貨預金はたったの7兆円。非居住者が発行する債券や株式など外貨建資産は、23兆円しかありません。また、投資信託を通じて間接的に海外株式など、外貨資産に投資しているケースもありますが、日本株等を含めた国内投信全体でも94兆円でしかありません。現預金1000兆円と比較して余りに少ない金額です。

以前から「円資産だけでは心配」と国際分散投資を行っていた方もいるはずなのに、全体でこの数字ということは、ほとんどの個人は外貨資産を保有していない状況にあると言えるでしょう。

今の時代、投資信託の積立やFX取引、外貨預金など円から外貨資産への投資は、少額からでも手軽に始められる環境が整っています。
この先も貿易収支の赤字が毎月1兆円規模で続くとして、円安を警戒する環境下で、これに個人が円資産の将来を不安視し、少し外貨を持ってみようとする動きが短期間に集中すると、大きな円安圧力になります。そうなったら、円安の行方は糸の切れた凧状態。風に任せて上昇し、130円台を抜けて140円乗せもあり得るかもしれません。
そして、大きく円安に振れた後にはもっと注意が必要です。行き過ぎた相場は必ず大きな反動を呼び、円安対策で取得したはずの外貨資産が、円高で大きな損を抱え込んでしまうリスクも意識しておく必要があります。

外貨投資を始めるなら少額から

円安を心配する投資家はどうしたらよいのか? 外貨投資を少額でも行っていれば、焦る気持ちは少し收まります。外貨資産(投信でも可)を持つなら、たとえば1ドル=110円の円高に振れて為替損が発生しても、気持ちが堪えられる投資金額に抑えること。いっぺんに大きな金額で外貨資産に投資せず、積立投資など時間を分散して円安の行方を冷静に見ていきましょう。

現在の為替水準からでも、個人による円安対策のためのコツコツ外貨投資が増えていくと考えます。そのため、ドルが140円をめざすムードまで過熱しないうちは、既に行き過ぎ観のあるドル高・円安の流れは変わらないと、私は思います。