先が読めない混沌とした年末相場に向かう
●金融緩和期待が打ち砕かれた
米FRB(連邦準備制度理事会)は7月に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で、2会合連続となる0.75%の追加利上げを決定し、政策金利を2.25~2.50%としました。この政策金利の2.25%は、パウエルFRB議長が、「景気を加速も減速もさせない中立金利」とした水準でした。
逆に言えば、これ以上の政策金利の引き上げは景気を減速させる可能性があり、株式マーケットでは、9月以降の利上げで景気後退の兆候が出てくれば、FRBは景気に配慮せざるを得なくなり、早ければ来年春先にも利下げへと政策を転換する可能性があると期待していました。
しかし、注目された経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」(8月25~27日開催)でパウエルFRB議長は、景気の下支えよりも物価抑制に重点を置き、家計や企業に痛みをもたらしても、「物価上昇を2%に戻すという仕事をやり遂げるまで金融引締めを続けなければならない」「インフレを抑制するためには不幸なコストはかかるが、物価の安定を取り戻さなければ、より大きな痛みを伴う」と金融引き締めの必要性を強く訴えました。
これを受けてマーケットは、FRBは今後も連続して利上げを行い、しかも、その高い金利水準はインフレ抑制のため「長期間」維持する可能性が高く、金融緩和への転換は当分期待できないと反応し、8月26日のダウ工業株30種平均株価は、前日比1008.38ドル安と大きく下落しました。
パウエル議長だけではありません。多くの米連銀総裁が、政策金利は「年内に4%に達することが望ましい」と、金融引き締めを続けることを断固として支持しました。
●引き締めは物価抑制に有効か?
物価上昇率が高まった背景には、サプライチェーンの停滞によるモノ・人手不足や地政学的リスクによる資源価格高騰など、供給側から発生している要因があります。需要を抑えるという意味では金融引き締めは有効ですが、供給側の課題を横に置いたまま、金融引き締めだけでは物価上昇を解消することはできないという見方が元々あります。物価上昇率を金融引き締めの継続で抑え込もうとするFRBの対応に結果が伴わなければ、景気後退を懸念するマーケットや世論から不満の声が上がるのは必至でしょう。
FRBは金融引き締め策を継続するかどうかは、「今後入ってくるデータや見通しを踏まえて総合判断する」と言っています。今後、景気後退の色が濃くなった時には、マーケットは、FRBの顔色を見ながら一喜一憂する展開になります。重要な経済データが出る前後や、株価などリスク資産の大幅な下落が発生するたびに、FRBのコメントに神経質にならざるを得ません。
9月に0.75%、11月、12月のいずれかの会合での0.5%利上げを想定すると、年末の政策金利は3.50%~3.75%になります。今後の政策金利の上昇を考慮した場合、米国10年国債利回りが6月に付けた2.6%よりもさらに低下していくとは思えず、この水準を底に米長期金利の高止まりが続き、政策金利の引き上げに連れて、再び3.5%前後の高水準を目指す上昇もあり得るでしょう。
ドル相場も日米金利差の拡大を背景に、1ドル130円を底に年末に向けて140円台に乗せ、その先に1998年当時の147円をめざす、円安・ドル高局面を迎える可能性が高いでしょう。
つまり、米長期金利は2.6%を下限に、ドルは130円を円高・ドル安の目処として確認した後、年末に向けて、今度はドル高・円安の目処と長期金利の上限を探る展開になると思います。
一方で、政策金利を引き上げても物価上昇率がなかなか低下せず、スタグフレーションを懸念する声が高まってFRBの政策転換を求める世論が強くなった場合、マーケットのセンチメントが変わって、大幅な金利低下、ドル安・円高、株高で、元の水準まで一気に戻すといった逆の荒い動きもあり得ます。
この先、政策金利を引き上げる上限に大体の目処が立つまでは、FRBの政策スタンスの変化を嗅ぎ取って動く、先が読めない混沌としたマーケットの展開が続きそうです。