今月の視点 2024年4月

1~2年先には日本も3%が当たり前になる?

●円キャリー取引が円安を促す

日本銀行がマイナス金利を解除する前には、日米の金利差が縮小し、為替は円高・ドル安基調に転換するとの見方がありました。しかし、現在までのところ、逆に円安が進み、財務省がいつ為替介入で円安・ドル高の動きを牽制するかがマーケットの関心事になっています。

日銀は、確かにマイナス金利を解除しましたが、今後も「緩和的な金融環境は当面続く」として、大規模な国債買い付けを継続することをマーケットに示しています。

一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は米経済が好調に推移しているため、景気に下支えは必要ない(利下げは急がない)と強調しています。マーケットでは、利下げは7月以降となりそう、それも複数回連続して引き下げることはないという見方も出始めています。

つまり、マイナス金利解除後も日本の金利はさほど上昇せず、そして米国の金利も大幅に低下することはなく、日米の金利差が4%を超える状況は当面続くという見方です。

また、今年は米国の大統領選挙の年。バイデン大統領としては、国民の不満を高めるインフレの再燃は避けたいので、インフレ要因の一つであるドル安への転換を望んでいないという事情があります。

日本の財務省が問題視しているのは、1ドル150円台という為替水準ではなく、円安になるピッチが早くなることです。つまり、日米両政府ともに為替の安定を求めているのです。

為替相場の変動はもちろんあるでしょうが、当面、大きく円高に振れるリスクが小さく、金利差が4%もあれば、円をドルに換えて運用する「円キャリー取引(円売りドル買い)」が増えて、円安・ドル高が今後も進みやすくなると考えるのは自然な流れです。

円キャリー取引が増えれば円安が進む、円安が進むから円キャリー取引が増えるという循環により、1ドル150円時代は一過性ではなく、年単位でこの先も続くのではないでしょうか。しかし、日本の金利が大幅に上昇して、日米金利差が縮小する方向性が今後出てくれば状況は変わってきます。

●国内金利の上昇が円安の歯止め

日銀の異次元緩和の修正により、マーケットの長期金利は、景気が良くなれば上昇し悪くなれば低下するというように、マーケットの需給で金利が変動する本来の機能が回復します。景気やインフレ、信用リスクの動向により、長期金利が1%程度の変動幅で上下する機会が今後は増えてきます。

これまで金利を低く抑え込んでいた日銀の影響が薄れることで、妥当な金利水準を探りながらですが、金利は上昇しやすくなるでしょう。

咋年3月、米国では預金の取り付け騒ぎでシリコンバレーバンクが破綻し、その後、米金融機関の融資姿勢が厳しくなったことで、銀行融資に頼らず、社債を発行して資金調達を行う企業が増えました。

同年10月に米10年国債利回りが5%台まで急上昇した後、米国では、利下げ観測などで今年初めに3.8%付近まで急低下したのを機に、今が調達のチャンスということで、社債発行のラッシュが起こっています。

日本国内でも同様です。通常、社債の発行額は1回当たり100億円程度の規模なのですが、この3月だけでも、ソフトバンクグループ、ソニーグループと1000億円を超える大型の社債発行が続いています。

特に、ソフトバンクグループは、期間7年、発行額5500億円という桁外れの規模で、しかも3.04%という高利率で個人向け社債を発行しました。ソフトバンクグループは、これまでに何度も、金利上昇が懸念されて他の企業が社債発行のタイミングを測りつつ逡巡している時に、大きな金額と目を見張るような金利条件での発行を繰り返してきました。

このソフトバンクグループの社債発行は、「今後金利は上昇するぞ」というマーケットに対する号砲だと言えるでしょう。今回も1%がせいぜいという昨今の一般的な社債発行条件を、いきなり3.04%まで引き上げ、一気に5500億円もの資金調達をしてしまいました。

ソフトバンクグループがこのタイミングで大量の資金調達を利率3.04%で行ったということは、この先7年の間に、年3.04%で資金調達をしても、ソフトバンクグループにとって価値がある金利環境が来ると想定しているということです。

マイナス金利の環境が長く続いたことでイメージが湧きにくいかもしれませんが、もしかすると、国内でも3%という金利水準が当たり前になる日が1~2年先にやって来るのかもしれません。ただし日本には、政策金利を大幅に引き上げて行くのに見合う、欧米のような景気の強さはありません。

もし大幅な利上げがあるとしたら、円の海外流出による行き過ぎた円安で国内の長期金利が押し上げられ、円安の加速に歯止めをかけるには「政策金利を引き上げて円安を止めるしかない」とマーケットが催促したとき。日銀がそれに応じるという、「マーケット催促型」の利上げになる可能性が高いと思います。