今月の視点 2024年5月

国内金利は上昇しても1ドル140円を割らない (このレポートは、政府・日銀が為替介入を行う前の4月30日に書いたものです)

●金利上昇を容認する政府・日銀

財務省・日本銀行は、内外金利差を縮小させるために、国内金利の上昇を容認せざるをえない状況に追い込まれていると思われます。

4月17日に開催された日米韓財務相会合では、「最近の急速な円安・ウォン安への日韓の深刻な懸念を認識しつつ・・・外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」との共同声明がまとめられました。

これにより、日本や韓国と協調して米国が為替介入に動く可能性は低いのですが、為替が過度に大きく変動しそうな局面で、日韓が為替介入を行うことに対する米国の理解を得た形になりました。

しかし、為替介入を行うことで円安のスピードを減じることはできても、円安・ドル高進行の根本原因である日米金利差の拡大の流れを止め、基調を金利差縮小に転換させるには、財務省・日銀は国内の金利上昇を容認するほかはありません。

4月19日、植田日銀総裁は米ワシントンでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、円安進行に伴う物価高について「無視できない大きさの影響が発生した場合には、金融政策の変更もあり得る」と、円安の加速で輸入品価格がより一層上がり、基調的物価上昇率に影響を与えると日銀が判断したら、追加利上げも辞さない構えを見せました。

財務省としては国内金利の上昇は避けたいところですが、円安に歯止めをかけ、為替の安定を図るのが現状では優先課題でしょう。一方、日銀には、インフレを助長する円安を阻止するためには国内金利の上昇は仕方がないという大義名分に乗じ、金融政策の正常化に向けて、長期国債の買入れをより減らし、さらには追加利上げに進みたいという思惑があるようです。

●国内長期金利は1%程度の上昇か

今後、財務省・日銀が国内金利の上昇を容認したらどうなるかを考えてみましょう。

マーケットの動向に敏感に反応し、先行して上昇するのが10年国債利回り。そして、政策金利を引き上げる可能性が現実味を帯びて来たときに上昇するのが2年国債利回りです。

下図は、2021年8月末から約1年間の米国10年国債と2年国債の利回りの推移です。10年国債利回りは1.3%からジリジリと2%まで上昇し、その後を2年国債利回りが追うように上昇。FRBが政策金利を引き上げた22年3月には、10年債と2年債の金利差がほぼなくなり、7月には、期間の短い2年債の利回りが10年債を上回る逆イールド状態になりました。インフレを抑制するためには、景気後退も辞さずと強い姿勢で政策金利を連続して引き上げた結果です。

しかし、日本(財務省・日銀)の場合は、円安・物価上昇を阻止するためには「金利上昇を容認せざるを得ない」という受け身の立場。長期金利の上昇が先行し、マーケットから「円安に歯止めをかけたいなら利上げが必要」と催促されて、追認する形での金利上昇になると思います。

4月下旬現在、日本の10年国債利回りは0.88%、2年国債利回りは0.28%です。今後の金利動向の鍵を握るのはマーケットの円安懸念です。 1ドル150円台が続いた後、160円を超えて円安が急進しそうなときは為替介入が行われ、その際には10年国債利回りも1.2%程度まで上昇するでしょう。

さらに長期金利が上昇する気配を見せたときに、日銀はマーケットに催促された形で0.25%程度の追加利上げに踏み切って、結果、10年国債利回りが1.75%程度まで上昇することがあるかもしれません。そしてその後は、妥当な金利水準を探り、長期金利は低下し、為替は行き過ぎた円安水準から、1ドル145~155円のレンジで推移する期間が長くなる展開を想定します。したがって、当面の国内長期金利は1%程度の上昇にとどまり、大きく円高に振れることはないと考えます。

為替変動に振り回されず、国内金利上昇の恩恵も受けられて、当面は投資環境の様子をじっくり見たいと希望なさる方は、①変動金利だから金利上昇がプラスになる、②購入後1年を経過すると政府が額面での買い取りを保証している「変動金利型10年個人向け国債」を検討されてはいかがでしょうか。