今後の視点 2026年3月 第2弾

何が起きてもおかしくない時代に備える3つの視点

2月28日、イスラエル・アメリカとイランの戦争が始まってから3週間が経過しましたが、戦闘は収束の兆しを見せず、ホルムズ海峡は実質的に閉鎖されたままです。世界の原油供給の約二割が通過するこの海域が機能不全に陥ったことは、エネルギー価格の上昇を通じて世界経済に深刻な影響を与えているだけではなく、タンカーの航路変更、保険料、ばら積み貨物やコンテナ輸送の運賃を押し上げるなど、世界の物流網全体にも波及しています。

結果、各国の中央銀行は、インフレを抑えるためには利上げが必要である一方、景気悪化を避けるためには利下げが必要という、相反する課題に直面しています。つまり、世界は“どちらに転んでも痛みが避けられない”状況にあり、表面上の静かに見えても、実際には危ういバランスの上に立っていると言えます。

しかし、このような危機的状況にもかかわらず、戦争当事国ではない多くの国々では、生活者の間に悲壮感や焦りがほとんど見られません。その理由の一つは、株価などのリスク資産がまだ大きく崩れていないためです。

人々の危機感は、遠い国の戦争よりも、日々目にする株価や雇用の変化に左右されます。株価が高く、雇用が安定している限り、生活者は「世界が危機にある」という実感を持ちにくいのです。しかし、この“心理のギャップ”こそが、いまの世界の最大のリスクとも言えます。

歴史を振り返ると、危機はいつも静かに進行し、突然表面化します。2008年のリーマンショックも、2020年のコロナショックも、生活者が危機を実感したのは株価が急落した後でした。今回も同じ構図が見られます。ホルムズ海峡の混乱はエネルギー価格を押し上げ、企業のコスト増加を通じて物価に波及します。物価上昇は家計を圧迫し、企業収益を悪化させ、やがて雇用にも影響が及びます。こうした連鎖が進んだ先に、株価の急落が起きれば、世界の空気は一気に変わるでしょう。

では、このような何が起きてもおかしくない時代に、私たちは何を準備し、何を心掛けるべきなのでしょうか。ここでは、資産面・心理面・行動面の三つの観点から整理します。

第一に、資産面の準備として重要なのは、流動性の確保です。パニック時に最も価値を持つのは、現金と余裕です。生活防衛資金を確保し、レバレッジをかけた投資を避けることで、“売りたくない時に売らされる”状況を防ぐことができます。そしてもう一つ重要なのは、バブルが弾けて何もかもが大きく値下がりする局面こそ、競争に勝ち残る本物の企業を割安に投資できる最大のチャンスであるという視点です。市場全体が恐怖に包まれ、優良企業まで一斉に売られる局面は、長期投資家にとっては数年に一度しか訪れない貴重な機会です。その機会を活かすためにも、平時から流動性を確保し、慌てて売らずに済む体制を整えておくことが欠かせません。

第二に、心理面の準備として、情報に振り回されない姿勢が求められます。危機が近づくほど、SNSやニュースは刺激的な情報を拡散し、私たちの不安を煽りがちです。しかし、ここで重要なのは「最悪の想像」と「最悪の行動」を混同しないことです。たとえば、原油価格が急騰したときに「世界経済が大きく揺れるかもしれない」と想像することは健全な危機意識です。しかし、その想像に引きずられて、保有資産をすべて売却したり、必要以上の買いだめをしたりすることは、最悪の行動にあたります。逆に、状況は深刻に受け止めつつも、行動はあくまで事前に決めたルールに従って淡々と進めることが、混乱期における最も強い防御になります。価格変動やニュースを恐怖ではなく“情報”として受け止めることで、必要以上に心を乱されず、冷静な判断を保つことができます。

第三に、行動面の準備として、平時のうちに“ルール”を決めておくことが重要です。どの水準になったら売るか、逆に、どの水準になったら買うか、誰に相談するか、どの情報源を信じるかなど、混乱の中で決断するのは難しいものです。だからこそ、冷静な時に方針を定めておくことが、将来の混乱を最小限に抑える鍵となります。

世界は今、表面は静かでも、実際には危ういバランスの上に成り立っています。しかし、危機を恐れすぎる必要はありません。歴史的に、どんな危機も必ず終わりを迎えています。大切なのは、未来を軽視せず、しかし過度に恐れず、できる準備を淡々と進めることです。パニックそのものを避けることは難しくても、被害を減らすことは誰にでもできます。世界が大きく揺れる前に、私たち一人ひとりができる準備を進めていくことが、これからの時代を生き抜く力になると考えています。