今月の視点 2023年6月

今こそ注目~個人向け国債・個人向け社債

米連邦預金保険公社(FDIC)は5月1日、米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が経営破綻して公的管理下に置かれ、米銀最大手JPモルガン・チェースがFRCのすべての預金と資産を買収すると発表しました。FRCの破綻も、3月のシリコンバレー銀など2行破綻時と同様に、銀行の支払い能力に不安を感じた預金者が一斉に預金を引き出す「取り付け」がきっかけとなりました。

そこで今回は、銀行の取り付け騒ぎが起こる深刻な状況の中で、是非、個人が知っておいて損のない金融商品として、「変動金利型10年個人向け国債」をご紹介します。

  • 個人に損をさせない商品の仕組み

個人向け国債には、変動金利型の10年、固定金利型の5年と3年の3種類がありますが、変動金利型の10年がオススメです。個人向け国債は、国内トップバンクだった三菱銀行(当時)以外は「潰れるかも」と囁かれていた金融不安時の2003年3月に誕生しました。それまで国債への投資主体は金融機関でしたが、財務省は金融機関に代わる投資主体として個人マネーに期待しました。

金融機関が潰れるかもという不安の禍中に個人向けに販売するわけですから、後に「損をした」と個人から文句の出ない商品設計にしました。まず、半年ごとに金利を見直す変動金利型を用意し、低金利時に購入しても、金利上昇が投資家にとってメリットのある仕組みを取り入れました。一方、金利低下はデメリットになってしまうので、当時、0.02%だった郵便貯金2年定期を上回る0.05%を下限金利に設定し、金利が低下しても文句が出ないようにしました。

加えて、「期間10年は長くて投資できない」という不満には、購入後1年間は売れないが、その後は額面金額で日本政府が買い取ることを保証しました。

こうして変動金利型10年個人向け国債は、「この低金利では預金を利用しても仕方がない」と悩む預金者にとって、金利がどっちに転んでも損にはならず、1年間換金できない不自由を我慢すれば、政府が買い取りを保証し損をしないという、画期的な金融商品になりました。1年経過後、たとえば株価が大きく下落して投資資金が欲しくなり、「個人向け国債をこのまま持ち続けるより株式投資するほうが得」と判断したら、額面1万円単位で売却することができます。

個人向け国債は、大方の金融機関で、同じ条件で毎月募集されていますので、預金の代わりとして検討してみてください。

  • 金利妙味が出てきた個人向け社債

もう一つ、「個人向け社債」にも注目してください。銀行の融資態度が厳しくなると、企業は銀行融資に頼らず、自前での資金調達を考えなければなりません。しかし、値上がり益があまり期待できない企業の新規株式発行は、投資家が歓迎しません。

そこで増えてくるのが個人向け社債の発行です。銀行融資に頼らずとも、個人向け社債で資金調達できる企業であることを示すことができれば、銀行から融資を受けやすくなりますし、投資家からも安心して投資してもらえるからです。

個人向け社債の発行額は一般的に100億円程度なのですが、2022年末頃から1000億円を超える発行が増えてきました。最近の個人向け社債の発行事例を挙げると、楽天グループは2022年6月に1500億円、年限3年、利率0.72%で発行し、2023年1月には2500億円、年限2年、3.3%で発行しています。そして、ソフトバンクが2023年2月に1200億円、年限5年、0.98%で発行、ソフトバンクグループは2023年4月に2220億円、年限はなんと35年と長く、利率は当初5年間が年間4.75%、次の15年間は1年国債金利+4.84%など変動金利型といった内容で、個人向け社債には珍しい複雑な発行形式でした。

個人向け社債の発行額が増えるに従い、発行条件は投資家有利となり、利率は1%を超えてきました。不思議なもので、1%を超えてくると、発行体はできるだけ低い金利のうちに早く発行を済ませたいと考えます。一方、投資家はもっとよい条件を求めるようになるので、発行利回りが上昇しやすくなります。

最近、海外で外貨建債券を発行すると、10%近い発行条件になることも稀ではありません。そこで日本の低金利が注目を集め、海外企業が外貨建てではなく、円建て発行外債で資金調達を行うケースが出てきました。その一つが下表にあるルノーです。年限4年で利率2.8%。こうした海外企業による社債の日本国内発行が増えてくれば、これも発行利回りの上昇要因になります。近い将来、為替リスクのない円建て債券で3%程度の利回りが当たり前になるかもしれません。

ただ、ここで注意しなければならないのはデフォルトリスクです。発行体が破綻したら社債の価値はゼロになってしまいますので、好条件であっても、破綻しない企業である確信が持てない社債への投資は見送ったほうがよいでしょう。