2024年6月 今月の視点

米国債利回りが低下しても、円高は当面なし

日米の金利差は縮小してきた

この3月、植田日銀がマイナス金利を解除し、GW中に政府が3度の為替介入を行いました。その後、日本の10年国債利回りが0.75%から1%程度まで上昇してきたため、介入前には4%程度あった日本・米国の10年国債利回りの差が、3.5%程度まで縮小する動きになっています。

円安・ドル高の要因のひとつだった日米金利差が縮小すれば、本来なら、円高・ドル安に向かいます。しかし、1ドル154円を辛うじて切る程度の動きにとどまり、再び、ジリジリと円安・ドル高へと向かいそうな気配となっています。

こういった動きは一時的なもので、今後はセオリー通り、日米金利差縮小→円高・ドル安へと向かうのでしょうか。私は、米国債利回りが低下して日米金利差が縮小する基調が続いたとしても、年内は円安・ドル高の流れは変わらないと想定しています。

●深刻な景気後退に向かうかも

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、昨年末、米国のインフレの数字は落ち着いてきており、深刻な景気後退にはならないと楽観的な見通しを示しました。それを受け、マーケットは、FRBが今年4月にも政策金利の引き下げに踏み切ることを期待していました。

しかし、2024年に入り、米国の景気と労働市場は底堅く推移しています。パウエル議長は、米国のインフレ鈍化には予想以上に時間がかかるとして、政策金利を今の水準のままで当面維持する考えを示し、加えて、インフレ率2%の目標に向けて順調に低下していると当局が確信するまでは、利下げは適切でないとまでトーンを変化させています。

FRBは2021年に米国のインフレは一時的なものと見誤り、その後、一転して景気の後退も辞さずと、インフレ抑止のため政策金利を5.5%まで引き上げました。そして、今回もまたFRBは、景気後退なきインフレ退治に自信を示していたにもかかわらず、前言を翻しています。

FRBはこれ以上、政策判断を間違うわけにはいきません。もし、インフレを退治したとして政策金利を引き下げた後に、インフレが再燃し、再度、利上げする展開になれば、FRBの面目は丸つぶれになってしまうからです。

マーケットでは、FRBは9月までに政策金利の引き下げに踏み切るという見方が多いのですが、私は、インフレ再燃を恐れるFRBは、個人消費が大幅に落ち込み、企業業績見通しの悪化からレイオフが増え、「このままでは深刻な景気後退が来る」といったマーケットからの悲鳴によって決断を迫られない限り、利下げに踏み切ることが出来ない可能性が高くなったと思います。

米国が政策金利を引き下げることができなければ、ユーロなど利下げを検討していた国も動きにくくなるでしょう。米国よりも先に政策金利を下げると、内外金利差拡大を受けて自国通貨安を招き、コストプッシュ型のインフレに陥る可能性があるからです。金利を高めに維持せざるを得ない状況が長引くと、景気が悪くなる中でもインフレが収まらない、スタグフレーションの招来を懸念する国が、今後増えていくかもしれません。

しかしながら、一時的に景気後退に陥ったとしても、米国には、景気を回復するカンフル剤となる政策金利引下げの余地が十分にあります。多くの投資家は、米国の投資対象が景気後退を背景に割安になる機会は、投資に踏み切る絶好のチャンスだと待ち望んでいます。

●これからの債券投資

一時は5%を超える利回りだった米10年国債は、現在4.5%程度まで低下していますが、安全・安心を求めた世界の資金が、高利回り水準にある米国債への投資ニーズを高め、資金が流入し、今後、3%前半までの低下はあり得ると思います。

安全資産を求める流れで、相対的にドルの存在感はさらに高まり、米国債利回りが低下基調にあっても、ドル安・円高に大きく振れることはないでしょう。むしろ、年内は1ドル160円を超えて170円をめざす展開になると、私は想定しています。

こうした米国債利回りの低下は、安全資産を求めて買われた結果なので、逆に言えば、リターンが期待できないリスク資産は今後売られます。債券の種類で言えば、米国債よりも信用力の劣る金融機関や企業、新興国の債券は売られて金利が上昇する可能性が高くなります。その過程で、破綻リスクが低いのに金利上昇で魅力を高めた社債、ハイ・イールド社債、新興国債券に投資妙味が出てくると思います。

これらのことから、4%を超える高利回りの米国債に投資できる時間はあまり残されていないので、投資を検討している方は、早めの対応をお勧めします。

また、高利回りを求めてハイ・イールド社債や新興国債などへの投資を検討していた方は、個別債券への直接投資は難しいので、それらを対象にした投資信託の活用を考えましょう。それも、当面は金利上昇による価値の低下を前提に積立投資で取り組み、割安になったと確信が持てる水準になったら、一括投資を検討するとよいでしょう。