このレポートは2024年7月30日に書いたものです。
その後、株価は大きく下げ、円高・ドル安が進み、米国10年国債の利回りが急低下しました。
以下がその内容です。
米国景気は本当にソフト・ランディングするのか
7月10日に1ドル162円程度だったドル円相場は、翌日以降、短期間で151円台までの円高ドル安となり、日米の株価も大幅に下落しました。
一方、米国の長期金利は緩やかに低下し、短い期間のほうが長い期間よりも金利が高くなる「逆イールド」が解消されそうな気配です。
米国の政策金利は、2023年7月から「5.25~5.5%」で据え置かれてきましたが、インフレ率が落ち着いてきたと米連邦準備制度理事会(FRB)が判断し、この9月にも政策金利引き下げに踏み切る公算が高まったことで、短期金利が長期金利よりも先行して低下したからです。
●深刻な景気後退を懸念してマーケットが大きく動揺する展開も
マーケットは、米国景気は今後利下げが複数回実施されることで、深刻な景気後退なしにソフトランディングすることを前提としていました。
しかし米国の政策金利引き下げが目前に迫ってくると、これまでの楽観的な見方に反して、深刻な景気後退に向かう可能性を心配する見方も出ています。
2023年7月からFRBが金利を高めに維持してきたにも関わらず、米国の個人消費が堅調だったのは、インフレを上回る賃金上昇に加え、株価の大幅な上昇で膨れた大きな含み益が消費マインドを支えたとも言えるでしょう。
もし米国の株価が2割以上急落する事態になったら、米国の個人消費は一気にしぼんでいくのではないでしょうか。
反対に、9月に政策金利を引き下げた後も株価の先高期待が続けば、消費意欲が高まってインフレ懸念が再燃し、FRBはいったん引き下げた政策金利を引き上げなければならない事態にもなりかねません。
再引き上げを懸念するFRBは、株価が大幅に下落するなど、このまま放っておいたら深刻な景気後退に陥るリスクが高まらない限り、追加利下げに慎重になるでしょう。今後のマーケットの関心は、追加利下げがスムーズに行える環境が整うかという点に移ると思います。
FRBは景気回復を促すための追加利下げの判断が遅れ、深刻な景気後退に向かう懸念がマーケットに広がるのでは、というのが私の見立てです。その後、FRBは政策金利を連続して引き下げざるを得ない事態に追い込まれると私は想定しています。
その過程では、リスク資産である株式が売られて株価は大きく下落し、社債はデフォルトが心配される企業の格下げが増え利回りは上昇します。
一方、安全資産で確定利回りの米国国債は買われて、10年国債の利回りは3%前半まで低下するかもしれません。
しかし、仮に米国のマーケットがこうした混乱状態に入ったとしても、米国には景気浮揚するための政策金利の引き下げ余地が十分にあります。
割安になった企業の株式や、高金利になった社債への投資機会を待っている投資家も多いため、割安に沈み込む時期は短く、妥当価格への戻りは早いと思います。
そこで今後の相場の急変に備えて、投資家のタイプ別に今後の対処法を考えてみましょう。
●タイプ別、大きな下落への対処法
長期投資で臨む人であれば、現在の米国国債は、いまだ4%台と高金利水準にあり、為替が円高ドル安に振れていますから、魅力的な対象としてお勧めします。
株式を対象にした投資信託の積立を行っている人は、株価が大きく下落してもいずれは戻ってくる展開を前提にしているのであれば、株価の下落で不安になったとしても、積立を休止せず継続することをお勧めします。
安く買って高く売るキャピタルゲイン目的の投資や、金利が高くなったら社債投資を考えている人は、割安になった際に投資できるように、リスク資産の割合を落として、投資可能な準備資金を確保しておきましょう。リスクを小さくするには、現在保有しているリスク資産の量を減らすしかありません。
最後に、「何をしてよいか」に迷っている人は、焦って、買わなくていいものを買わないためにも、預金よりも高利回りで、1年を経過すれば政府が損なしで額面での買い取りを保証している「変動金利型10年個人向け国債」を購入し、1年間じっくりと使い道を考えてはいかがでしょうか。