「悪い金利上昇」で1ドル160円に向かうか?
2025年秋現在、世界の金融市場はかつてないほど不確実性に満ちています。地政学的緊張や主要国の政策転換が重なる中、日本では、政局の混乱、財政の迷走、そして海外市場からの信認低下が重なり、株価・金利・為替のいずれもが大きく振れやすい状況にあります。
こうした中で、高市政権が誕生し、日本株式市場はこれを歓迎するかのように新高値を更新。門出を祝う展開となりました。
一方で、国内の長期・超長期金利は上昇傾向にあり、為替は1ドル150円台の円安水準で推移。金融市場全体には不安定さが漂っています。
今後、企業業績や政局の混乱などを背景に株価が急落すれば、株安・円安・債券安という「トリプル安」への懸念が現実味を帯びてくるでしょう。
今後のマーケット動向を見通す上での私の最大の関心事は、「ドル円相場が160円に向かうかどうか」です。
金利上昇の質が転換し、円安に
従来のドル円相場は、日米の金利差を主な材料として動いてきました。米国が利下げ方向、日本が利上げ方向という現在の構図からは、本来であれば円高・ドル安が進むはずです。
しかし実際には円安が進行し、一時1ドル153円台をつける場面もありました。この背景には、金利の「質的な変化」があると私は見ています。
かつての金利上昇は、景気回復やインフレ抑制を目的とした、資金需要が高まる「良い金利の上昇」でした。
ところが、第二次トランプ政権の発足以降、関税引き上げや同盟国との摩擦が再燃し、米国の政策に対する信認が揺らぎ始めています。こうした動きは米国に限らず、世界的にも政策への信認が低下し、最近の金利上昇は「悪い金利の上昇」へと質が転換したと考えています。
このような状況下では、単なる金利差ではなく、「どちらの通貨がより信頼できるか」という質的な判断が為替市場を動かします。
日本の政局では、公明党が連立を離脱し、日本維新の会が新たな連立相手となりましたが、少数与党の立場は変わらず、政策決定の停滞が懸念されています。与野党ともに国民の不満を和らげるため、積極財政の姿勢を打ち出さざるを得ない状況です。
しかし、財源の裏付けがないまま減税や財政出動を進めれば、英国のトラス政権のように市場からの信認を失い、株安・円安・債券安(金利上昇)の「トリプル安」に陥るリスクが高まります。私は、円が最弱通貨として160円に向かう展開を想定しています。
過度な円安が進めば、米国からのけん制が入り、日銀は円安抑制のために政策金利の引き上げを継続せざるを得なくなるでしょう。
その動きを先読みして、長期・超長期の国債が売られることで利回りはさらに上昇し、金利負担の増加により財政出動の余地はますます狭まります。金利上昇は企業の資金調達コストを押し上げ、株価の下押し圧力となります。
さらに、為替の不安定さが企業の設備投資意欲を削ぎ、消費者心理も冷え込むことで、実体経済にも悪影響が及ぶ可能性が高いと見ています。
金利差縮小でも円高は限定的
このように、ドル円が160円に向かうかどうかを注視しつつ、日銀の政策対応、財政の信認、そして国際的な通貨の信頼性の変化に目を凝らしていく必要があります。
米国の10年国債利回りは、政策金利の引き下げを織り込む形で3.5%程度まで低下し、一方、日本の10年国債利回りは、政策金利の引き上げを織り込みながら2%を目指して上昇すると私は想定しています。
現在約2.5%の日米金利差が、1.5%まで縮小すれば、ドル円の為替相場は一定の安定を取り戻す可能性があります。ただし、円高になったとしても、1ドル150円の水準から大きく円高に振れる展開は当面の間起こりにくいと見ています。

